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「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」 Posted on 2020/12/05 辻 仁成 作家 パリ

結局、言葉の使い方を間違えると、人間は極端な話し殺されることもあるし、間違えなければ、ずっと幸せに生きることもできる。
言葉って誰もが一番使う自分を他人に伝えるための元の元だから、どの言葉を選ぶかで、人間関係を悪化させたり、好転させることもできる。
ぼくは、若い頃、作家のくせに、言葉のコミュニケーションに対して、疎かだった。ちょっと軽々しかった。
だから、もめ事も言葉から起きたし、言葉でずいぶんと損をしてきた。
で、ある日、ぼくは使う言葉に慎重になったのだ。
たとえば、好き、でも、嫌い、でも、方法はこの二つしかないわけじゃない。
実施には、無限の好きを伝える言葉が存在し、無限の嫌いを届ける言葉がある。
ストレートに言わないとならない時もあるけれど、実際は、もっとデリケートな問題を孕んでいることが多い。
言葉はキュークツ、というアルバムをぼくはソロ活動時代に作ったことがあった。
ほんとうに、そうだと、思う。

「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」



しかし、逆に、言葉を味方につけることが出来れば、生きやすくなるのがこの世でもある。
メールなんかが、分かりやすい。
ラインのメッセージだって、結構、みんな思ったことをそのまま書いて送信しちゃっいるけれど、そこから、余計な誤解を生みだしていることも事実。
ラインのやりとりで人間関係が破綻することもしばしばある。
こういうこと言ってくる奴はと、もういいか、と思わせる人のなんと多いことだろう。
それは、単純に、言葉の使い方が間違えているだけだったりもする。
着やすくつかえる道具だけに、ことばにはちょっとした気配りが必要になる。
語尾をちょっと変えるだけで、あるいは、?、のマークを付けるだけでも、ギスギスを回避することは可能になる。

「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」



ぼくらは、とかくいらぬストレスを感じやすい。
原因は圧倒的に言葉力が足りなくなっているからである。
もしも、そつなく、自分の意思を、しかし、きちんと伝えることが出来れば、苦しくなることもその分、なくなるのである。
そういう言葉の訓練、もしくは言葉の鍛錬というものをやってきただろうか?
本を読むだけでも、違うけれど、作家のぼくでさえも、言葉遣いを間違えることがある。
言葉は人と人と繋ぐ最初の手段だ。人間交渉の第一歩である。
ここを円滑にできる時、ぼくらは楽になり、人間関係がいっそう楽しくなる。
そういうことを俵万智さんのような言葉の達人から、学ことは意味がある。

「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」



来週の日曜日が近づいて来た。
俵万智さんと地球カレッジで何について語り合うのか、先ほど、LINEミーティングをやった。
俵さんは「言葉で人と繋がるのってとっても難しい。だからこそ、大切な言葉を探したり選んだりすること、いやもっとその手前にある大事な問題、言葉で人とどうやって繋がっていくのか、についてぜひ対話したい」とおっしゃった。
それはとっても素晴らしいアイデアじゃないか。まさに、現代人が抱える一番の問題なのだ。
ぼくらは絶対、他人と向き合わないとならない。いったい、どの言葉を選べばいいのか。
もちろん、俵さんは短歌の人だし、ぼくは作家なのだけど、二人に共通しているのは「言葉」だ。
そして、何度も言うけれど、言葉とは人と人を繋ぐ大事な手段なのである。
12月13日の地球カレッジは、短歌教室という形式を利用しながら、短歌を一つの題材にしつつも、ぼくらが生きにくいと感じるこの世の中で、言葉によって何かを表現し、誰かと繋がっていることを再認識できるような、言葉の教室にしましょう、ということで一致した。
「言葉の教室」とってもいいと思った。

「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」



「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」

そこで俵万智の「サラダ記念日」をぼくはもう一度、再読してみた。
彼女が24歳の時に産み落とした作品集で、教科書にもなっている。
するとそこには人間のコミュニケーションのあらゆる本質が書かれていたのだった。
俵万智がこだわり続けてきたものは「心を書き留める」ということである。
例えば、恋愛をしてその恋愛が終わるまで、心の変化は毎日少しずつ移動している。そうだよね? そうだったし、きっとこれからもそうだと思う。
幸せだと気づく一瞬、待ち惚け、虚しさ、儚さ、疑い、人に会いたいちう気持ち、したいのにできないという苦しみ…。
そういう、いろいろな気持ちを俵万智は短歌にしている。



短歌はわずか31文字で、小説に負けないほどの広がりや世界を描いたりする。
そもそも、詩や日記よりも圧倒的に短いのに、時に小説家を仰天させるほどの驚くべき言語世界を作り出してしまう。
何気ない、普段の言葉だというのに、ぼくらの心をとらえて離さなくさせる。
そういうことだったんだ、と自分を再発見したり、あの日の自分に再び出会える手段になったりもする。
経験したことや表現のぜい肉を全て削ぎ落として、もはや、分子や原子のレベルだ。要らぬ心配や感情も削ぎ落とせる。無駄な説明や余計な解説はいらない。
切り捨ててゆく緊張感が溢れているし、切り取ってくる充実感に満たされている。
そんな風に、心の揺れを言葉にすることで、実は人間って、楽になれるものなのだ。
だから、そういうことを90分間、みなさんと話したい、とぼくらは決めた。
今、ぼくらにとっても必要なものは一番自分に近い言葉を選ぶ能力なのである。どういう言葉が人を感動させ、人を繋いでいくのか、…。

悩みや心のもやもやを短歌、つまり短い歌にすることで、ぼくらは落ち着きを取り戻すことが出来るのかもしれない。
何よりも、心の整理整頓ができ、全てが軽くなるのだ。
短歌とは通り過ぎてしまう一瞬、一瞬、見逃しそうな生活の中の自分であり、風景かもしれない。だから、いちいち、歌にすることで立ち止まり、心を点検する作業だと言える。

俵万智の短歌は暗さやしめっぽさがない、ポジティブな潔さに溢れている。
12月13日、ぼくらは自分たちの言葉を取り戻す、ささやかだけど、大きな一歩を手に入れる。

俵万智x辻仁成 「日々を丁寧に生きる短歌教室」2020.12/13 (Sun) 19:30open 20:00start〜


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*定員になり次第、締め切らせていただきます。
 

「言葉で人と繋がるために、言葉を選び、言葉をつむぐ術」

自分流×帝京大学

posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。