JINSEI STORIES

滞仏日記「才能と出会う。若い人にこの世界の未来を託したい」 Posted on 2019/02/06   

 
某月某日、今日は「第2回新世代賞授賞式」に出席するため鎌倉まで日帰りで往復した。体調が悪く、昼の竹書房さんとのミーティングをキャンセルしてしまった。けれども、この授賞式だけはどうしても欠席することが出来ない。なぜなら、僕にはこの若い受賞者たちを祝福する役目があるからだ。僕がこの賞の構想を持ったのは私塾「人間塾」をやっていた10年前に遡る。大人のための賞はいくらでもあるが、子供たちにチャンスを与える賞があまりないことに気が付いた。中高生、大学生、25歳以下の新世代の人たちに向けてジャンルの垣根を超えたアートとデザインの賞を作らなければ、となぜか当時僕は強く思ったのだった。(25歳というのはとりあえずのくくりで、大きな意味ではまだ社会に出ていない人たち、ということになる)そういう人たちの背中を押すようなことをやりたかった。僕自身、いろいろと賞をもらったことで頑張ることが出来た。自分が何者かわからないのが若者の特権だが、彼らが潜在的に持つ才能を埋もれさせず、気づかせることこそ今の自分の、或いは大人の役目だと思った。自分の才能に気が付かないまま、その才能を捨ててしまう人もいる。若い人のひらめきや感性はこの国の財産でもある。いいや、世界の宝だと思う。地球の未来を僕は楽観していない。でも、もう自分は若くない。ならば若い人たちにチャンスを与える側にまわらなければ・・・。次の世代に委ねたい。そのためにまずは若い才能たちを発掘しなければ。気が付けば、本来ならば国や企業がやるようなことを個人ではじめてしまった。ポスターやちらしを作ることはもちろん、それを学校に配ったり、その中身を伝えることにたくさんの労力が割かれた。お金も時間も根気もかかることだったが、でもなんとかスタートすることができた。そして、たくさんの応募作品を見て、僕の方が励まされてしまった。ほら、こんなにチャンスを求めてる若い人たちがいるじゃないか、と。そして、第2回の受賞作が決まった。今日は、その授賞式なのだ。体調が悪いなどとは言ってられない。いざ鎌倉。授賞式が行われる鎌倉を目指した。

今回は第1回目の受賞者も招くことが出来た。第1回目は大学の控室を借りて小さな小さな授賞式をやった。手作りの表彰状を渡すだけの本当に簡素な式典だった。でも、今回は鎌倉のホテルが立派な場所を提供してくださり、鎌倉の市民も駆けつけてくれた。企業がメセナとして名乗りを上げてくれたおかげで、質素にならずに済んだ。だから第1回目の受賞者も招くことになった。僕は感無量だった。そして、思っていた通りというのか、この若者たちは誰もが熱かった。みんなが近づいてきて、僕に思いを語り続けた。表現することの難しさと意味と悩みと喜びを語りあった。その姿はまるで自分の若い頃にそっくりで、そのことがまず一番僕を喜ばせた。最近の子はダメだ、と大人たちは言う。自分たちの頃には考えられなかった、と付け足す。「そうだろうか? あなたたちはいったいどこを見ているのだ」と僕はいつもそういう会話がはじまると首を傾げた。今の子がダメな基準が僕にはわからない。そして、いつの時代もある種の大人たちは今の人たちを全否定する。さも、自分たちがこの世界を築いたかの勢いで偉そうに語る。しかし、悪くしたのも自分たちだということを忘れている。僕が若かった頃、僕はいつもそういう大人の意見に反発を抱いていた。だから、自分が大人になっても若い世代を否定しない人生を歩もうと決めていた。時代時代でその若さの発露は違う。でも、よく見ればわかる。若い人の根本は何も変わっていない。新世代賞にかかわる大人たちは子供の頃にそういう反発を持っていた人たちであり、そういう心意気をいまだに忘れることなく生きている人たちであろう。今回の審査員もスタッフも協賛企業の方々も皆さん、若い世代を強く支援する人たちだった。一言付け足せば、審査員の建築家、田根剛氏、アーティスト集団Chim↑Pomのエリイ氏、卯城竜太氏、株式会社レーサムの飯塚達也氏の協力があってこその授賞式であった。

最優秀賞を受賞した立花和弥さん(23)は熊本の大学生だった。一見、物静かな青年だったが、彼が選んで語った言葉たちはそこに集まった人たちを驚かせた。若き建築家は記憶を持って生きることの大切さについて静かに熱弁した。熊本の震災の後、彼は地震によって崩落した山の斜面に抉られた負の遺産を歴史的な未来遺産に変えたいと提案した。その発想の根底に彼は、人間が持ち続ける記憶の大事さがある、と説いた。去年の受賞者、中村暖さん(23)は副賞のロンドン留学から帰った足で駆けつけてくれた。この若い二人はそこに集まった人たちに向けて自分たちが抱くこの世界の未来ヴィジョンを力説した。僕らは授賞式の後も語り続けた。入選した人たちも全員集まって輪になって語り合った。一人一人が作品の反省や後悔を僕に伝え、別の誰かが再挑戦への決意を口にした。みんな本当に熱意があった。実に熱い若者たちだった。この新世代賞はさらに続くことを僕は確信することが出来た。続けなければならない。

そして、新世代賞は幸運なことにまもなく、第3回目の応募を開始する。この賞は可能性がある若い人たちのものだ。いや、まだ可能性があるのかないのかさえわからない子供たちのものだと思う。この星の未来は彼らの手の中にある。
 

滞仏日記「才能と出会う。若い人にこの世界の未来を託したい」

 
第3回アート&デザイン新世代賞の詳細は以下のリンクから!
➡️「第3回アート&デザイン新世代賞、始動!」