PANORAMA STORIES

「モードの世界に飛び込む」 Posted on 2017/07/31 佐藤 康司 デザイナー パリ

フランスに行こうと思い立ったのは、大学2年の時だった。
それなりに充実した学生生活を送っていたけれど、いつも何か納得できていない自分がいた。そんな時、子供のころからずっと興味があった「海外留学」が頭をよぎった。
異文化に触れ、違った視点から自分の人生をもう一度見つめ直してみたい。
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。
 

「モードの世界に飛び込む」

地方の語学学校に通うも、同世代のフランス人とも接する機会が少なかった僕は、パリで現地の人たちが実際に通っている専門学校に入りたいと思った。
洋服に興味があったので、まずは構造を学ぶために立体裁断を学ぶ2年制の専門学校へ入学することに決めた。フランス語は難しかったけど、技術的なことは全てノートに絵で描き止めて暗記、わからないところは放課後に友人に教えてもらい授業についていった。

しかし、やっと学校に慣れた1年目の学期末、なんと学校が閉校すると知らされた。2年制の学校なのに1年目で閉校だなんて。これがフランスなのだろう。
結局実力不足の生徒たちはそれぞれバラバラの道へ進むことになった。
父親と約束していた留学期限が1年足らずと迫っていた。短期集中でパターンの勉強ができる職業訓練校AICPに通い直すことにした。

有名ブランドで働いている人たちも授業を受けに来る非常にレベルの高い学校であった。
朝から晩まで授業が続く。夜は宿題をこなす毎日であった。
頑張って最終試験を通過した僕は、希望していたイブサンローランオートクチュールのスーツ部門のアトリエへ行ける事になった。
14、5歳からキャリアを積んでいる縫い子さんたちの手仕事を間近に見れるばかりか、トイレの窓からは向かいの建物の階下でデザイン画を描くサンローラン本人を見ることもできた。
 

「モードの世界に飛び込む」

研修内容は、2次元のデッサンを、生地を使い3次元に具現化する訓練をする。ただ繰り返すばかりじゃつまらない、と思った。
研修期間を3ヶ月に延ばしてもらい自分のデザインしたジャケットをアトリエの人たちに手取り足取り教えてもらいながらサンローラン方式で作成してみた。研修期間が終わる頃、当時トムフォードがクリエイティブディレクターだったプレタポルテのほうのアトリエに行ってみたいと思い、異動願いを出したちょうどその日、学校から僕宛に一本の電話が入った。

「至急エルメスに面接に行ってくれないか?」

以前からマルタン・マルジェラに興味があった僕は、彼がクリエイティブディレクターをしているエルメスに俄然興味が湧いた。その足ですぐに面接に行ったところ、ラッキーなことに、エルメスのアトリエで研修することになったのだ。
その後、デザイン執行部がデザインとパターンのできる人物を探しており、独学でデザインもしていた僕はデザインスタジオ付きのアシスタントとして働くことになる。
フランス語の聞き取りが飛躍的に伸びたのもこの時期だった。責任感と緊張感の中での日々の仕事で集中力が増していたためだと思う。マルジェラ本人、執行役員、アトリエのシェフ、生産管理、モデルなどがそこには勢揃いだった。新人の僕は、何のことはないパンツの丈直しを頼まれ、緊張のあまり手が震え全身発汗した。
 

「モードの世界に飛び込む」

当時を振り返ると自分の初々しさに微笑みが起きてしまう。色々と大変なことの連続であった。しかし、その度周りの人に助けられた。自分は本当に人に恵まれていると思う。これまで出会った人たちを思い浮かべると、フランスに行こうと思い立ち、そしてモードの世界を選んだのは間違っていなかったのだと改めて思いなおすことができた。デザイナーとしてパリのモード界で仕事をはじめるのはその直後のことだ。
 

「モードの世界に飛び込む」

あの頃の純粋な無謀さが今の自分を作り出したのは間違いない。僕は今日もパリの片隅でモードと向き合っている。
 
 

Posted by 佐藤 康司

佐藤 康司

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Koji Sato
デザイナー。1976年生まれ。新潟市出身。98年に渡仏。Academie Internationale de Coupe de Parisモデリスト科を首席で卒業。YVES SAINT LAURENT HAUTE COUTUREのタイユールのアトリエで研修後、 HERMÈSで当時クリエイティブディレクターだったマルタンマルジェラ氏に師事。2001年よりMICHEL KLEINのアシスタントデザイナーに。アパレル、アクセサリー、テキスタイル、刺繍、ライセンスを担当。2010年よりデザインディレクター兼コレクション責任者に就任。2017年4月にパリで株式会社CREAFIDEMSを立ち上げ、現在様々なプロジェクトを進行中。