PANORAMA STORIES

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩きPosted on 2017/01/05  Posted by 佐藤 久理子

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

パリの北駅から出る赤い列車、Thalysに揺られて、ふらりとブリュッセルに日帰りで行った。

こんな思いつきの旅をすることにしたのは、ブリュッセルでジム・ジャームッシュの展覧会をやっていると聞きつけたからだ。もっとも好きな映画監督のひとり、ということもあるけれど、彼の新作『Paterson』がフランスで公開になり、その余韻がまだ脳裏にこだましていたということもある。

パリからわずか1時間半という地の利を得て、バッグ1つで身軽に列車に乗り込んだ。
これなら余裕で街をぶらつける。

ホリデーシーズンの雰囲気を味わって、ついでにムール貝とワッフルでも食して帰ってくるか、そんな欲張りな願望がつい頭をもたげる。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

ブリュッセルに到着後、会場のオープン時間にはまだ間があったので、まずは街の中心にあるグランプラスに行ってみた。市庁舎と王の家に囲まれ、あちこちに金箔が散りばめられた豪勢な広場だ。
さすが12世紀から経済が栄え、裕福な商人たちのギルドハウスが建てられた面影を感じさせる。

ヴィクトル・ユゴーが「世界でもっとも美しい広場」と称し、スノッブなジャン・コクトーが「絢爛たる劇場のごとし」と讃えたそうだが、この重厚なきらびやかさは、「プチ・パリ」という以上に美しい。

中央には大きなクリスマス・ツリーが飾られ、一層華やかさを増していたが、やはり人出は少なかった。
ヨーロッパではクリスマスから元旦までホリデーシーズンを祝うため、クリスマスの飾り付けがそのまま1月上旬まで残っている。
日本人にとっては、正月気分をまったく味わえない上に、なおさら年が明けたという感慨が薄くなるわけだ。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

映画館の地下を改造したシネマ・ギャラリーは、洞窟のようだった。

石造りの細長いスペースの各部屋にスクリーンが投射され、映画の抜粋が流れている。
「そぞろ歩き」をモチーフにしたコンセプチュアルな展示だが、写真やドキュメントの類いはない。
正直もっと「発見」を期待していたので、ちょっと肩すかしだった。
だが、客のいないがらんとした空間で、それぞれの作品の主人公の彷徨を眺めていると、なんだかそのこと自体がとてもジャームッシュ的であるような気がしてきた。
彼の映画の登場人物はいつも彷徨っているから。目的地があってもなくても、昼でも夜でも。

たとえば詩を書くのが好きな『Paterson』の主人公のバス・ドライバーは、バスを運転しながら、その頭のなかには詩が流れている。注意深く周囲に気を配りながらも、どこか半分イマジネーションの世界に足を突っ込んでいるようなところがある。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のバンパイアは、デトロイトから地球の反対側のモロッコまで、
時空をめぐり、夜の街を徘徊する。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』では、オフシーズンのマイアミで、真っ白な雪の中をあてのはずれた主人公たちが彷徨う。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

なんだかよくわからないがパリからいまブリュッセルにやってきて、このどこかの地下の洞窟にもぐり、ぶらぶらしながら目の前の彷徨える人々を、自分もその分身よろしく目にしている。
もしかしたらキュレーターは、そんなジャームッシュ的体験そのものをこの展覧会をきっかけに提供しようとしたのではないか。

ちょっと考えすぎかもしれないが、そんな風に思えてくるような異空間だった。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

受付の人に心配されるほど、長い時間地下に籠っていた後(だいたいあまり長居をする人はいないらしい)、
外に出てみると瀟洒なパッサージュには、ベルギーのさまざまな名店やカフェが並んでいた。

ちょうどパリのギャラリー・ヴィヴィエンヌやパレ・ロワイヤルのようなイメージだ。ゴーフルのメール、
ピエール・マルコリーニ、ゴディヴァ、ノイハウス。あまりの甘い誘惑に、ここでもまた長居をしてしまう。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

パッサージュを抜けたときはもう、短い冬の日ざしが傾き始めていた。

さあ、これから今日のもうひとつのメインである食事と行こう。
さてムール貝にするか、それとも牡蠣にするべきか。白ワインか、せっかくだからベルギー・ビールにするか。
やはりジャームッシュ的に行くなら、ここはビールかな。

そんなことをまた考えながら、再び「そぞろ歩き」を開始したのだった。

ブリュッセル ジム・ジャームッシュ展でそぞろ歩き

CINEMA GALERIES 「Jim Jarmusch」〜12/02/2017

Galerie de la Reine 26
Koninginnegalerij / 1000 Brussels

Posted by 佐藤 久理子

佐藤 久理子

Kuriko Sato
フリージャーナリスト。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「FIGARO Japon」等でその活躍を披露。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)がある。