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ホテルストーリーズ 「SP34 Copenhagen」 Posted on 2017/01/23 辻 仁成 作家 パリ

アートモダンな落ち着いた館内、細かなところに斬新なアート風試みがあり、何よりシックでエレガントな居住空間を提供してくれる。
スタッフの対応も実にそつがない。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

不思議なバーがこっそり営業をしているような裏路地に位置し、外見はここにこんなホテルがあるのかという隠れ家的、いやホテルだとはまず気が付かない地味な佇まいをしている。

ところが一歩中に入ると別世界。ホテルレセプションがバーカウンターにあって面食らった。

シャンパンを飲んでるカップルの横でチェックイン。
バーテンなのかレセプショニストなのかわからない感じのお姉さまが接客を担当。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

わざと壁に穴を開けたり、朽ちさせたりと、そこら中に作り込んだアート感が満載。
トイレから通路まで実に手が込んでいる。

小さな美術館にいるみたいだ。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

入り組んだ館内をぐるぐると移動し、やっと辿り着いた我々の部屋は最上階の屋根裏部屋風ロフトであった。
そこには屋根に突き出したテラスがあり、コペンハーゲンを一望することができた。

ここで半年ほど暮らしたいと思ったほどの解放感と居心地の良さである。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

室内に置かれた家具はやっぱりデンマークデザイン、特にお気に入りが階段脇の机とその椅子だった。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

ベッドも面白い。背もたれが椅子みたいになっており、ソファとしての機能もある。
うちの小僧は寝相が悪く、必ずエキストラベッドをいれてもらう。息子もエキストラベッドの方が気楽らしい。

なぜか、欧州のホテルにはツインベッドルームが少ない。家族なんだから一緒に寝ればいいじゃんって発想か。
私は寝る時は狭くても一人で寝たい派なのですよ(笑)。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

メインレストランVAKSTはオーガニックの大変人気なレストランみたいだが、私には特に感動はなかった。
ロシアのホテルもそうだけど、どこもパリに右にならえで有機野菜をふんだんに使ったヌーベルキュイジーヌ。
旅行者が食べたいのはその土地の伝統から派生した料理やそこでしか食べることのない食べ物だったりする。

ホテルにはもう一つ、COCKS & COWSというハンバーガー専門レストランがあって、
牛のあらゆる部位で作るオリジナルハンバーガーは息子に好評であった。
ここのポテトはトルネードポテトといってらせん状。これが不思議な食感で実に美味であった。

私のようなうるさい客を喜ばせてくれる幅広い選択肢をこのホテルは持っているということか。
つまりここは心得ているホテルということができる。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

ところで、私は窓の鍵に関心を持った。

これがこのホテルのオリジナルか、デンマークでは普通のものかわからなかったけれど、知恵の輪のようで面白く、息子とこの窓を使ってしばらく遊ぶことができた。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

ちなみに、デンマークの建物はちょっと窓の作りが他所の国とは異なっている。
郊外には特に出窓付きの家やマンションが多く、だから鍵や把手も変わっているのかもしれない。
そして窓を開けると隣家が見え、そこにはデンマークの生活や日常が香っていた。

このホテルでのひそかな楽しみがこの窓とそこから広がる世界を眺めることにあった。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

滞在期間中、ずっと雨だったせいもあるけれど、SP34は館内にい続けて退屈しない楽しい宿だった。
一階のラウンジがきっとこのホテルで一番贅沢な空間であろう。
みんなそこに集まり、知り合いのように和気藹々ソファで寛いでいる。

夕方、ワインが飲み放題になる。振る舞い酒のあるホテルというのも珍しい。
ここでも息子は私の隣でゲームをやり、私はと言えば、静かにワインを舐めながら、世界中から集まった様々な人種、職業、事情を抱えた旅行者の顔を眺め、創作のヒントを探すのであった。

結局、息子とラウンジで過ごす時間が一番好きなおやじなのである。

ホテルストーリーズ  「SP34 Copenhagen」

Photography by Hitonari Tsuji