PANORAMA STORIES

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話 Posted on 2017/04/20 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム

それは2002年12月7日の夜のこと。
万全のセキュリティーを備えたアムステルダムのゴッホ美術館から2点の絵画が忽然と姿を消しました。

盗まれた絵画は、「スヘフェーニンゲンの海の眺め」と「ヌエネンの教会から出る人々」という、どちらもゴッホがまだ彼のスタイルを確立する以前、1880年代の貴重な作品です。
 

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話

Presentation of the two paintings.
Photo: Jan-Kees Steenman



当時の報道によると、犯人二人組はハシゴを伝わり、ハンマーで窓に穴をあけて館内に侵入。
その間、たったの3分40秒。
警察が駆けつけた時には、犯人はすでにスキーマスクを外し逃亡したあと……。驚きの早業です。

「本当は『ひまわり』や『じゃがいもを食べる人々』といった有名な作品を盗みたかったのだが、侵入する際に破った窓から持ち出すには大きすぎるし、ちょっと有名すぎるという理由で急遽変更したんだ」 と、後に逮捕されて服役を終えた犯人が語っています。

その後、FBIの“世界トップ10アート犯罪リスト”に名を連ねながらも長い間行方不明になっていた2点の絵画。
それが14年の歳月を経た2016年9月、麻薬捜査中の警察により、イタリアはナポリ郊外のマフィアのボス宅で発見されたのです。
作品は綿布に包まれ、金庫に保管されていたとのこと。報道では2点合わせて総額1億ドル(約101億円)相当の価値! とも言われています。
 

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話

Restorer Kathrin Pilz researches
‘Congregation Leaving the Reformed Church in Nuenen’ under the microscope.
Photo: Jan-Kees Steenman



そんな数奇な運命を辿った絵画たちが、この度晴れて、故郷であるアムステルダムのゴッホ美術館に帰ってきました。本格的な修復に入る前に、見つかった時の状態を知ってもらおうと一般公開されているということで、私も早速行ってきました。

“額縁が外されており、一部に損傷がみられるものの、保存状態はおおむね良好”と聞いていましたが、実際に見てみると盗難の際に誤って落とされたことによる傷あとがまだ生々しく残っていたりと、2点の絵画は静かに事件当日の様子を物語っています。

同時に、盗難被害に遭った美術館の状況やその後の調査過程、そして発見された時の様子などがビデオ上映されているのですが、確かにハンマーで割った穴はさほど大きくなく、切羽詰まった中で運び出すには、ちょうど手の届く? サイズ感ではあります……。
それにしても、小さいが故に盗まれてしまうなんて、切なすぎますよね。
 

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話

Nuenen, January – February 1884 and autumn 1885 Vincent van Gogh (1853 – 1890)
oil on canvas, 41.5 cm x 32.2 cm
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)



「ヌエネンの教会から出る人々」(1884-5)41.5×32cm は、足の骨を折って療養中だった母親のために、ゴッホが父親が牧師を務めていた教会を描いたものです。残念ながら1885年3月に父親は帰らぬ人となってしまい、教会の前で嘆き悲しむ女性像などは、その後に書き加えられたことなどがX線調査により判明したりと、ゴッホの生涯を知る上でも貴重な作品です。
 

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話

The Hague, August 1882 Vincent van Gogh (1853 – 1890)
oil on paper on canvas, 36.4 cm x 51.9 cm
Van Gogh Museum, Amsterdam (State of the Netherlands, bequest of A.E. Ribbius Peletier)



もう一つの「スヘフェーニンゲンの海の眺め」(1882)34.5×51cm は、ゴッホの作品の中でも数少ないハーグ滞在中に描かれたもので、風に吹かれて波立つ海の複雑な情景を、何層もの絵の具のレイヤーと巧みな筆さばきで見事に表現している、小さくとも目を見張る迫力のある作品です。
 

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話

この記事を書くために、14年という歳月をこの絵画たちがどのように過ごしていたのか少し調べてみたのですが、犯人から絵画を購入しようとした人が、約束の取引の日に射殺されたり、犯人の一人はその“壁をよじ登る”スキルから、警察に“the Monkey”というニックネームをつけられていたりと、さながら映画を観ているようでした。

世の中にはまだまだ知らない世界がたくさんありますね(笑)。

無事に戻ってきた2点の絵画は、5月14日まで一般公開されて、その後は本格的な修復作業に入るそうです。
もう二度と、こんな思いはしませんように!
 

おかえりファン・ゴッホ! 映画みたいな本当の話

“They’re home again!” (-2017.5.14)
Van Gogh Museum
Museumplein 6
1071 DJ Amsterdam

Posted by まきの ななこ

まきの ななこ

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Nanako Makino
ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。