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インテリジェント・ロックダウン 〜アートと検疫のはざまで〜 Posted on 2020/04/05 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム

およそ二週間の外出制限が過ぎた3月31日、オランダでは当初4月6日までとしていたロックダウンをさらに三週間、4月28日まで延期することが発表されました。

オランダはこのロックダウンのことを”インテリジェント・ロックダウン”と呼んでいて、成果がみられない限りさらなる延長の可能性も示唆しています。

とはいえ、スーパーや薬局への必要物資の買い出し、健康維持のための散歩等は認められているので、格別の混乱もなく住民は静かにこの政策を受け入れています。

インテリジェント・ロックダウン 〜アートと検疫のはざまで〜

<出荷待ちの花> ©︎BUSINESS WEEKLY

 


それでもやはりずっと家に缶詰になっていると、肉体的にも精神的にも疲れが出てくることは確か。今回はこんな非常事態に、少しでも安らげるような話題をオランダからお届けしたいと思います。

まずは、インスタグラム @tussenkunstenquarantaine というアカウント。
直訳すると”アートと検疫の間で”という意味です。外出制限が始まって早々にできたこのアカウントはあっという間に広まり、オランダの有名な美術館からもフォローされています。

やり方は簡単。好きなアートを選び、身近なものを使って真似てみようというもの。実際にみた方が一目瞭然なので、いくつか目に止まったものをご紹介してみますね。

これは買いだめが発生したトイレットペーパーを使った、ちょっとシニカルなもの。

こちらはもう、身体(顔?)を張った力作としかコメントできません。思わず吹き出してしまいました。

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Langverwacht. De Nachtwacht. 👏🏼 #tussenkunstenquarantaine

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中には、こんな身近な物にインスピレーションを見出したものまで。皆さん独自の視点で楽しまれていて、見ていて飽きません。

もちろん各都市の美術館もオンラインで様々な館内ツアーを配信しています。

日本人の方にも人気のハーグにあるマウリッツハウス美術館は”Meet Vermeer”と題し、世界中のフェルメールの作品を公開していますし、アムステルダムのゴッホ美術館は自分のお気に入りの絵画をダウンロードしてぬり絵ができるようになっていたり、アムステルダム国立美術館では誰もいない館内を歩き回り、巨匠たちの作品を至近距離で誰にも邪魔されずに思う存分堪能できるようなヴァーチャルツアーを用意しています。

残念ながら、今年はオープンを見合わせることとなったチューリップで有名なキューケンコフ公園は館長自らがYouTubeで園内を案内してくれたり、輸出できなかったお花を使ってフィールドに大きな大きな蝶々のようなアートをつくったりもしてくれています。(この様子は、#VisitNetherlandsFromHomeというハッシュタグで見ることができます)

ここまで盛り上げておいて水をさすようでなんですが、残念なニュースもあります。コロナ対策の一環として閉館中だったシンガー・ラーレンという美術館からゴッホの絵画が盗まれてしまったのです。それもなんとファン・ゴッホのお誕生日である3月30日に!盗まれた絵画は「春のヌエネンの牧師館の庭」という84年に制作されたもの。

奇しくも新型コロナ感染がここまで拡大してしまう前、私がオランダで最後に訪れた美術館がこのシンガー・ラーレン美術館でした。作品は縦39センチ、横72センチの大きさで、森のなか、遠くに見える教会を背景に中央に女性が佇んでいる、個人的にとても好きな作品でした。

世の中が戦っているなか、心無いことを企てる人もいるものですね。これには、心底腹が立ちました。

インテリジェント・ロックダウン 〜アートと検疫のはざまで〜

最後におまけと言ってはなんですが、以前デザイン・ストーリーズの記事でもご紹介したレンブラントによる唯一の全身肖像画”Marten & Oopjen”ご夫妻も、現在はアムステルダム国立美術館で、国の指針に従い1.5メートル離れて飾られているようです(笑)。*オランダのソーシャル・ディスタンス(社会的距離)は1.5m、ちなみに、フランスは1m、イギリスは2m。

インテリジェント・ロックダウン 〜アートと検疫のはざまで〜

このところのアムステルダムは珍しく毎日穏やかな晴天に恵まれています。外出できないのに、、と恨めしく思う声も聞きますが、私はこんな時だからこそ、窓から見上げる青空にとても癒されています。太陽の有り難さをつくづくと感じながら。最前線で戦っている方のことを思えば、家でじっとしているだけでいいなんて、とても甘っちょろいものですものね。

喧騒が消えたアムステルダムは、さながら16世紀にタイムスリップしたかのような雰囲気です。次回はリアルな写真で生き生きしたアムステルダムをご紹介できることを祈りつつ、今回はここで筆を置きたいと思います。

それぞれの方法で自身を盛り上げながら、この未曾有の事態をみんなで一緒に乗り切りましょう。

インテリジェント・ロックダウン 〜アートと検疫のはざまで〜



Posted by まきの ななこ

まきの ななこ

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Nanako Makino
ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。