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「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成 Posted on 2016/12/10 辻 仁成 作家 パリ

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

ある晴れた日の午後、サンマルタン運河にいた

 

堰き止められた運河の水に反射する世界

 

過去と未来が出入りする

 

わたしは流れ去る時の隙間に過ぎない

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

死んだ詩人の言葉がなおも生きて

 

未来にいる人を照らし続けている

 

橋の上から運河を見下ろせば

 

反射する世界のわたしが笑う

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

出来ては消えるあぶくのように

 

茂っては枯れるはっぱのように

 

光っては翳るおそらのように

 

起きては眠るわたしのように

 

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

いつも人はさようならを持っている

 

いつか人はさようならを待ってしまう

 

幸せが永遠に続くことなんかないし

 

不幸せがずっと続くこともない

 

幸せの絶頂にいる時にこそ覚悟せよ

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

すべてが幻だと思い知るために

 

水面が映す世界の美しさに涙を流す

 

思い出してごらん、生まれた時のこと

 

忘れ去ってごらん、死んだ時のこと

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

寂しいなんて言ったらだめだ

 

寂しくない人なんかいないんだから

 

「サンマルタン運河、詩情」 辻 仁成

Photography by Hitonari Tsuji