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滞仏日記「鬱な父ちゃん。チャールズが心配をして、パリまで様子を見に来た」 Posted on 2024/04/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、更年期障害がどうかわからないが、気分がずっとすぐれないので、笑顔にならない、ここのところの、そんな父ちゃんなのであった。(自撮り禁止やし)
田舎にいた時も、心の浮き沈みが激しいので、チャールズと奥さんのミハーがめっちゃ心配して寄り添ってくれた。ありがたい。
たぶん、子育てが終わったことでちょっと気が抜けたせい、音楽興行の終わり、他にもいろいろとめんどうくさい人間関係、そういうものが重なって、引退を決意したら、どっと心に、疲れが出たのかもしれない。
日本のプロモーターから、本当にやめるんですか、と今朝、電話があり、ずっと出なかったのだけれど、いつまでも出ないわけにいかないので、出たら、「自分が至らず、すいませんでした」と謝られてしまい、そういうのに、弱いので、「もういいよ、終わるんだから」と小さな声で、もどしたのだった。
「タイトルは、ラストジャパンツアー、にしてね。最後だから、最後にふさわしいタイトルでやろうよ? 」
来年は、弾き語りで武道館をやろうという話しも実は水面下であったので、「なんとか続けてもらえないでしょうか」と言われたが、続けたいけれど、続ければぼくが背負うことばかりになるでしょ、大きなライブがキャンセルになったら、ぼくが支払うの違うんじゃねー、もう、やめようよ、それより、大阪最終公演を最高のライブにしてよ、それが一番の供養になります、とお伝えして電話を切った、父ちゃんであった。あはは。
作家の江國香織さんからも、ええええ、なんでやめるの、とメッセージが来た。やはり、持つべきものは友だちである。
ともかく、こういうことが、ぼくを鬱気味にさせるのだ。電柱作戦の大きな電柱を一つ失うことになるのだから、当然である。でも、大丈夫、電柱は道が続くかぎり、あるのだ。
「ひとなり、もう、何も考えるな。楽しいことだけをしよう。ちょっと心配だから、そっちに今から顔出すが、いいか」
とチャールズから、SMSが入った。彼らは昨日からパリ入りしているのである。
「言っとくが、なんも食べるものないよ」
「食べに行こう。一緒に、いいレストランがある。わいわい、やった方がいい」
そうとう、心配かけているのだな、と思った。すまない。
でも、そういう時にこそ、料理をしなきゃ、と思って、冷蔵庫を覗いたら、東京で買った「みぞれ」スープのパックがあった。おお、これや!!!!
冷蔵庫に、田舎から持ち帰った野菜と肉もあった。これやこれ!!!!
鍋ができる!!!

滞仏日記「鬱な父ちゃん。チャールズが心配をして、パリまで様子を見に来た」

滞仏日記「鬱な父ちゃん。チャールズが心配をして、パリまで様子を見に来た」



ぐずぐずしていたら、本当に、鬱になってしまう、と思い、老体に鞭を打って、キッチンに立った、自撮り禁止令下の、父ちゃんであった。
母さんの言葉が、自然と口を突いて出る。
「ひとなり、苦しい時には、がんがん炒めて、じゃんじゃん食べるこったい」
ということで、鶏肉は叩いてひき肉にし、生姜をたっぷりと入れて、つみれを作った。
野菜はざく切りにし、ガスコンロを探した。
忙しくしていないと、心はどんどん塞いでしまうので、動くのが、よかった。
小一時間で、ちゃんこ鍋、の準備完了となった。
身体を動かしたことで、少し、気分が晴れやかになった。
テーブルの上を片付け、料理を並べた。
18時過ぎに、チャールズとミハーがやって来た。どうぞどうぞ。
彼らは食のフェスティバルがあって、仕事半分、遊び半分でパリにやって来たのである。で、ついでに、ぼくの様子を覗きに来た、ということ・・・。
「食べに行けばいいのに、作っちゃったのか?」
「これ、鍋だから、作ったと言えるほどのものじゃないし。適当にあるもので」
「豪華ね」
「知ってる? ちゃんこ鍋って言うんだ。日本のお相撲さんたちが、なんでも、あるものをぶちこんで食べるから、ちゃんこ、というんだ。でも、おいしいよ。〆は、ラーメンでも、うどんでも、お米を入れてリゾットにもできるよ」
ということで、家族のような仲間たちとの夕食の回になったのだった。

滞仏日記「鬱な父ちゃん。チャールズが心配をして、パリまで様子を見に来た」

滞仏日記「鬱な父ちゃん。チャールズが心配をして、パリまで様子を見に来た」



大笑いをしあった。
ボルドーワイン大使なので、事務所にたくさんいただきもののボルドーワインがあって、それを飲み干した、チャールズ、であった。あはは。
この二人は、本当にぼくのことを心配してくれているのである。
で、心配だからやって来たのに、大丈夫か、と暗い顔で聞いてこない。
ただ、食べて、バカな話ばかりして、帰っていった。
一緒に片づけをやり、酔ったので、ぼくはもう寝るだけだった。
それが人生というものである。
友だちは寄り添ってくれるものである。
「じゃあな、田舎で待ってるからな」
ぼくらはハグをしあった。
めるしー。

滞仏日記「鬱な父ちゃん。チャールズが心配をして、パリまで様子を見に来た」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
どうやったら、最高の最後のライブを皆さんに届けられるか、考えていたら、それは、これまでの道のりで本当に大切にしてきた曲を全部歌うことじゃないかな、って、気が付いたのです。今、それをメドレーにしようとしています。歴史をつなげて、一緒に、ダンスしましょうね。最後だから。いえーい。

大切なお知らせです。

5月26日に、エッセイ教室をやります。正式募集は、5月1日ですが、課題は「お弁当」エッセイです。エッセイ好きなみなさん、今から課題取り組んでくださいね。
詳しくは、とりあえず、こちらをご覧ください。
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https://www.designstoriesinc.com/wp-admin/post.php?post=52012&action=edit

それから、それから、
月に3度、父ちゃんがお茶の間に登場し、熱血で語ります。
ツジビル村営放送、ラジオ・ツジビルは、こちらです。
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https://www.tsujiville.com/

さて、さて、日本での引退も決定したので、東京と大阪公演、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。

・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

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自分流×帝京大学

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