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ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」 Posted on 2018/12/01 辻 仁成 作家 パリ

新世代賞も第2回目の受賞者数名を配することができましたが、第1回目の最優秀賞受賞者、中村暖くんはいま、新世代賞副賞の海外留学応援制度でロンドンに留学中です。彼がパリにいる僕を訪ねてくれるというので、サンジェルマン・デ・プレ地区でインタビューをしてきました。信じられないくらいの行動力を持つ驚異の23歳。こういう人を輩出出来て新世代賞も鼻が高いです。「日本の若者は世界に出なくなった、ダメになった」と言われて久しいですが、どっこい、お言葉ですが、今の若者も負けてはいませんよ、と私は胸を張って彼の活動を紹介したいと思います。スーパーのビニール袋を宝物に変えてしまう魔法をこの23歳は獲得しました。捨てるしかないマテリアル(素材)から大切な何かを生み出すこの青年の未来こそ日本の希望ではないでしょうか? 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」をお届けします。人間の可能性十分、読む価値がありますよ。
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

 
 中村くんがロンドンに留学して1ヶ月経ったそうですが、毎日どんな生活をしているのですか?

中村暖さん(以下「中村」、敬称略) 僕は今、ロンドンで主にシャンデリアについての勉強をしています。毎日博物館で、自分の作品とエリザベス女王の宝石の輝きはどう違うのか、どうやったら自分が扱うガラスやアクリルでエリザベス女王の宝石のような輝きが出せるかなっていう研究や挑戦の計画をしたりしています。いろんな場所を訪問して、毎日がとても充実しています。例えば、シャンデリアの研究の話を今住んでいるホームステイ先のおばさんにしたら、教えてくれた場所があって。そこは癌患者の緩和センターで、とてもデリケートな場所なので、観光客が行く場所ではないのだけど、僕がシャンデリアの勉強をしているというので紹介してもらうことができました。そこには、海でながれてきた漂流物をアーティストが作品としてシャンデリアにしていて。海の漂流物に対する未知の感覚。これは、病気と診断されたときの心の患者の状態に似ているようで、 「未知のものへの恐怖」を共有すること痛みを美しく輝きに変えるということ。感動と圧倒された空気感に息を飲みました。
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

癌患者緩和センターにある海の漂流物のシャンデリア

 
 へえ、シャンデリアの勉強をしているのですね。新世代賞で最優秀賞を受賞した作品は捨てられるスーパーのビニール袋をワニ皮のように加工し、バッグを作るというものでした。その作品とは何か関係があるのでしょうか?

中村 そうですね。僕はペットボトルとかアクリルのように捨てられるものにダイヤモンドと同じくらいの価値を感じています。自分が持つ、その「目」の感覚をずっと大事にしたい。僕が素材を見つけて、ここまで輝かせることができるということがわかれば、じゃあ、指輪になるよね、ネックレスにもなるよね、とデザインしてくれる人は別に現れます。プロダクトをデザインするというより、原石発掘みたいなポジションが自分の役目だと思っているんです。例えば、アセテートという素材でメガネを作ったのですが、その素材はメガネ職人さんの倉庫に落ちていた傷だらけの床材なんです。ジュエリーやプロダクトに限らず、モノになるその前の状態、僕にしか見えないぞっていうものを大事にしなきゃなって思ってます。それは人かもしれないし。僕にしか見えない世界、僕にしか聞こえない声、気持ち、全てが大切と感じる毎日です。

 なるほど。

中村 3月に青山のスパイラルで作品展示の機会があるので、ここでいっぱい吸収して僕の作品として発表できたらと思っています。ロンドンで一番好きな場所があって、それはロンドン科学博物館。初めて訪れた際に、「Materials that changed the world.」というキャッチコピーを見ました。素材自体、僕も捨てられるアクリルとかをワニ皮にしたり、バッグにしたりしているので、まさに、自分がしていることは世界を変えるんだということが一言で書かれていて、すごくすごく嬉しくて。自分の中でずっともやもやしていたものがこの展示の一言でスッキリしたなと思いました。
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

ロンドン科学博物館にて

 
 東京・青山での発表というのはもう期間なども決まっているのですか?

中村 青山表参道スパイラルで2019年3月21日から4日間、シャンデリアの展示をすることになっています。世界で活躍する25歳以下のクリエイターが選ばれて作品展示の機会をいただきました。僕がずっと作りたいと思っていたものは、ライオンがつけたひっかき傷の付いたガラスやアクリルをシャンデリアにするということなんです。今はロンドンから富士サファリパークの人に連絡して、それを実現させるために挑戦しています。人間では作ることのできない美しい傷がライオンなら作れる。新しいヴィンテージの感覚、世の中の人工的な美しいをちょっとだけアップデートしたいなって考えています。
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

エリザベス女王の宝石と中村くんの宝石

 
 ロンドンに住んでみたことがそのアイデア構築に影響を与えましたか?

中村 実は今、ロンドンの築200年の建物に住んでいますし、街にも築200年、300年の建物で溢れていて。だからそれを補強する外壁工事のクレーン車やダンプカーも街に溢れていて。美しいもの、カタチあるものが壊れるのは普通の事。壊れたら直せばいいし、汚れたら磨けばいい。そのリペアの感覚とか、残す部分、新しくする部分、そのバランス感覚はやはり住んでみて理解できた感覚だと思います。世界最古の動物園もロンドンにありますし!

 ロンドンに来て良かったと思いますか?

中村 僕は3ヶ月の観光ビザできていますが、今は本当に来てよかったと思っています。そして、帰る時も同じ気持ちだったらいいな、と思っています。あ、すごい出会いもありました! 僕、4年前にあるニュースサイトに取り上げられたことがあるんです。その時に同じ特集で一緒に取り上げられていたロンドンの路上アーティストのおじいちゃんに街で偶然出会ったんです! そのニュースというのは、僕がゴミをジュエリーに変えるということをしていた時に取り上げられたのですが、そのおじいちゃんはロンドンの橋に捨てられて黒くなったチューイングガム跡にひたすらペイントを施しているんです。器物破損で一回警察に捕まっているんですけど、「みんなが捨てたゴミにちょっとペイントして美しいものに変えてるだけ」というおじいちゃんの主張が通って、起訴されませんでした。街を歩いていたらその人に偶然出会えて、すごく嬉しくて一緒に写真も撮ってきました。笑 会った日はロンドンは雨が降っていて、気温も2度くらいですごく寒かったんですけど、おじいちゃんはガンガン絵を描いていて……。僕もおじいちゃんになっても手を動かし続けないとなって思いました。
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

チューイングガム跡アーティストのおじいちゃん

 
 先日、第2回新世代賞の審査員を務めてくださった建築家の田根剛さんに会ってきたそうですが、何かアドバイスをもらいましたか?

中村 「ファイナルクオリティ」という言葉が印象に残っています。10年間作り続けたら見えてくるよっておっしゃっていました。「素材」を10年したらいいって。背中を押していただきました。

 中村くんの場合、もう将来は見えてる気がするんだけど(笑)。面白いと思ったのは、今日、中村くんと僕が会っているのはサンジェルマン・デ・プレにあるカフェドゥマゴ。パリのど真ん中の有名なカフェで、目の前にはサンジェルマン・デ・プレ教会なんかもありますが、入ってくるなり、キョロキョロすることもなく、僕の前に座って淡々と自分のことを話してる。そんな人ってなかなかいなくて。普通ならパリの建物に圧倒されて挙動不審になったりしてる。中村くんはそんなの目に入ってないもんね(笑)。只者じゃない。

中村 いやあ、僕にとってはまだ見えぬ未来です。でも、今回デザインストーリーズから「新世代賞」というチャンスのチケットをもらって、この「チケット」がとても大切だなと思いました。例えば、ロンドンでは襟のついたコートを来ていないとドアを開けてくれない店もある。どこに入れるか、行けるかの「チケット」が見えるか見えないかでその後の世界は変わってくるというか。これからもこの夢のチケットをたくさん見つけていきたいと思っています。
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

Atelier Tsuyoshi Taneにて、建築家 田根剛さんと

 
 中村くんの行動力はすごいよね。とにかくプロデュース能力がすごい。ものを構築していって、人を集めて動かす力、自分のビジョンを設計する力とか、話せるし。プレゼン能力がかなり高い。ジレンマもあると思いますけど。

中村 ありがとうございます。いつも、「今しかない、今をフルで」というのを意識していますね。時間が敬意だと思っているからこそ、対ヒトというのは難しい。ものが出来上がるために何工程もあって、その度に違う人間が関わっているから、自分のイメージと違う手が動く。自分の手の延長線という感覚なんですけど、操作はできないですから、そこが一番難しいですね。

 ここ最近、この若さでこれだけしっかりしている人には初めて会いました。今すぐにでも僕の会社よろしくねって任せられる感じ。100億を200億にしてねって言ったらやってくれそう(笑)。今日は若いパワーをたくさんいただきました。応援しています。頑張ってね!
 

ザ・インタビュー「23歳の新人、中村暖はいかにして世界をデザインするか」

 
【KUMA EXHIBITION 2019】
場所:青山スパイラルガーデン
日時:2019年3/21〜24
 
 

posted by 辻 仁成