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リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」 Posted on 2023/11/13 辻 仁成 作家 パリ

※ こちらのインタビューはコロナ禍前に(4年前、2019年1月頃でしたね)、中村江里子さんのご自宅に招かれた時に、行ったものです。
一言、言わせてください。ほんとうに、兼子で、真面目な方で、子育ても、ご主人への愛も、もう、眩すぎるパリジェンヌなのです。
いや、あの方は素晴らしい。そんな中村江里子さんに、父ちゃんがインタビューをした、実に珍しいやりとり、ぜひ、微笑みんがら、ご一読くださいませ。
はじまり、はじまり。
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中村江里子さんのパリの自宅に招いていただき、キッチンを借りて出張ランチインタビュー。
今日は中村江里子さんの素顔に迫りますよ。

まずは、泡で乾杯!
 

リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」

 
 さて、乾杯が終わりました。それでは、召し上がれ! まずは野菜の小悪魔風ジュレです。自宅に招いてもらってのインタビューってご本人もリラックスされてるからいろんなことが聞き出せるかも! 早速ですが、実はね、僕、中村さんと仕事をしたことがあったんですよ。

中村江里子さん(以下、「中村」敬称略) えっ!?

 昔、ドラマに出演されたことないですか? 『嫉妬の香り』という。あのドラマの原作は僕で、プロデュースも僕なんですよ。LVMHと僕の共同プロデュースでした。

中村 そうなんですか! 一話だけですけど、ゲストで出演させて頂きました。フジテレビを退社してフリーランスになった頃で、私が役者さんには絶対になれないと悟った瞬間です(笑)。

 お芝居はどうでしたか?

中村 面白かったのですが、やはりまず照れが入ってしまったのと、私はどうやらカメラやマイクがあると無意識に声の出し方が変わってしまうらしく……。だから、私だけ声を張ってしまったら役者さんたちとのバランスが取れなくなりますし、最後には「滑舌が良すぎる」という注意を受けてしまって。う〜〜ん、違うな〜〜と感じました。

 僕と中村さんはだいたい渡仏した時期も同じで、お互い20年近くパリに暮らしているわけですけど、これまであまり会う機会がありませんでしたね。僕が中村江里子という方を意識したのは5年前に出した本「息子に贈ることば(文藝春秋刊)」の書評を書いてくださった頃からです。その時の書評がどんな批評家のものよりも素晴らしいもので、すごく嬉しかった。というのは、やはり、「パリで子育てをしている」という共通項があったからなのかもしれない。その大変さをわかって頂けたのだと思うんです。

中村 本当ですか? それは私もすっごく嬉しいです。
 

リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」

 
 中村さんの子育てについてのお話を聞かせてくださいますか?

中村 子育ては勿論、大変ですが……楽しくって仕方がないです!! 妊娠時も幸いつわりなどがそう重くもなかったこともあり、楽しかった!! それこそ3人目を出産直後、ドクターに「すぐにでも、もう一人欲しい!」って訴えていたくらい。つらいと思ったことがないです。とにかくべべ(赤ちゃん)と自分だけの穏やかな時間で、泣きそうになるくらい愛おしい時間でした。いつか授乳は終わり、オムツ替えもできなくなくなると思うと悲しくて仕方なかったほど……。

この間、ちらっとお姉ちゃんにお会いしましたが、雰囲気とかちょっとうちの息子に似てるところがありました。フランスの子って、とってもクールですよね。お子さんたちはパパとママどちらに似ているのですか?

中村 顔でいうと、長女は一時期完全にパパ似と言われていたんですが、今はママに似てると言われることが増えました。それで喜んでくれてるから良かったと思ってます(笑)。息子はフランスにいると100%ママ似と言われるけれど、日本に行くと100%パパ似と言われる。たぶん見るポイントが違うんですよね。

 お姉ちゃんは今14歳。反抗期とかありますか?

中村 無いんですよ。ちょっと機嫌が悪いということは勿論ありますけど。我が家はパパが出張で家にいない時は子供たちが順番に私と一緒に寝ているんです。だから子供たちはパパが出張でいないのは寂しいけれども……、この時だけはママと一緒に寝られる!! って大喜び。はっきり言ってしまうと(笑)。「パパは何日間いないの?」と聞いてきて、「じゃあ何日一緒に寝れるね」と言って、3人がじゃんけんで本気の喧嘩になります。誰が最初にママと寝るか、で(笑)。

 今も(笑)?

中村 今もですよ。14歳の長女もその喧嘩のメンバーにしっかり入っていると言うとみんなに驚かれますが、「今日は私だからね」と譲らない。譲るのはだいたい下の娘です。「オッケー」って。

 外見は大人っぽいお嬢ちゃんだけど、まだ子供っぽいところがあるんですね。

中村 一番子供っぽいかも知れません。寝る前には「ママ、もう寝るからキスしに来て」と言って、行くとクッと寝ちゃう。学校からも時々電話してきたりして、「ママ何してる? 大丈夫?」とか(笑)。

 子供さんとは日本語で話されていますか?

中村 次女が一番日本語を話したがります。上の子二人は会話が難しくなってくるとフランス語になっちゃいますね。
 

リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」

 
 へー、なんか幸せ家族だね。バルトさんにも会ってみたいな! バルトさんってどんな方なんですか?

中村 そこにいるだけでなんだか笑ってしまうような感じの人です。例えばお世話になっているヘアメイクさんが我が家に仕事のためにいらっしゃると……バルトさんが挨拶に出てきただけで笑い出している。このあと、何を言い出すのだろう? 何が起こるのだろう? って感じで。基本的に明るくて優しい人ですが、外でとても気を使う人なので、家に戻ってくると疲れ切っている。本人はその自覚がないから、そのしわ寄せを家族が受けることになるので、私はよく爆発しています。だいたい、私がケンカをふっかけて、一人で怒っています!!

 えー! 中村さんがケンカふっかけるの見てみたい(笑)。

中村 結構、こわいですよ〜〜。もう、彼に一日に一体何回「エリコ!!」って呼ばれるか……。ファッションの仕事をしていたこともあって、ファッションが好きな上、自分なりの美学を持っているのです。身長が195cmで細身でもあるので、なかなか既成の服はサイズが合わず、昔からオーダーをしています。生地選びから、タックの位置、ボタンのつけ方まで……とにかくこだわる。つまりは、毎日の生活でも、特に服に関しては大変(涙)。チーフの色から靴下の色まで意見を求められるのですが……「あのさあ、その違い、他の人はわからないから!!」って思わず言ってしまいます。

 何なんですか、甘えん坊? 

中村 どうなんでしょう。彼と一緒に仕事をしている人たちは、バルトさんは本当に楽しいし、立ち振る舞いもスマートだし、あなたを愛しているし、素晴らしい人で……と褒め言葉のオンパレードですが、必ず最後にこう付け加えます。「でも、一緒に生活するのは一週間でいいかな?」って(笑)。

 パスタを作りながらで申し訳ないのですが、中村さんのご両親というのはどういう方だったのですか? ご実家は銀座の老舗楽器屋、十字屋さんで。

中村 うちの父は、めちゃくちゃかっこいいんですよ。ちょっと待って、写真持ってきます。見てください!

 あ、すいません、あの、その前に胡椒もらっていいですか(笑)?

中村 ほら、左の男性ですよ!! 多分、私は相当な娘バカかもしれませんが、これは父が30代初めのころの写真です。
 

リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」

 
 わ、本当だ。ハンサム! お父さまってどんな方だったのですか?

中村 父は大企業に勤めていたのですが、その当時の同僚の方々が「エリコちゃんのお父さんは会社では光源氏って呼ばれていたんだよ」って。プレイボーイではないのですが、他の部署の女性たちが父のオフィスに見に来ていたとか。一方で父は「僕は読書と山登りが趣味なんです。一人でいるのが好きなんです」ってつれなかったらしいです。母とは見合い恋愛結婚ですね。

 それで、どうして楽器屋をやろうと思ったのですか?

中村 全くそんなつもりはなかったのですが……。十字屋は母方の商売なんです。明治からずっと築地と銀座で営業をしていました。でも、戦争や病気で男手が全くなくなってしまい……祖母が継ぐことに。でも、祖母はお財布を持って出かけたことがないようなお嬢様。戦後の東京でいきなり会社の経営をすることになり、本当に様々な苦労をしてきたようです。一切、口には出しませんでしたが。戦後、女社長はまだまだ珍しい存在でした。祖母が頑張って引き継いできたものを、父が「男手があった方がいいでしょう?」とサポートすることになったのです。とにかくご先祖様が築いてきたものを、きちんと受け継いでいくために。

 もうお亡くなりになられたんですよね、バルトさんはお会いになったんですか?

中村 彼は会いました。「あなたのお父さんは博識で、フランス人が疑問に思ってることとか、月の話まで何を聞いても必ず答えてくれる」といつも感心していました。

 お母様はどんな方なのでしょう? イカのアヒージョ風パスタができましたので、食べながらお伺いしますね。ちなみにイカは今朝マルシェで買ったもの、パスタはこの前行ったフィレンツェで購入したイカスミのスパゲッティです。名付けて、「イカの冷静と情熱の間」。ボナペティ!

中村 うわ、すっごく美味しそう!! イカがいっぱい!! __母は、音楽をこよなく愛する人です。コンサートに出かけていますし、自身でも震災後にはメサイヤのコンサートに参加したり、今はハンドベルにはまっています!! 歌もプロ並みに上手で、特にシャンソン。母が歌う「愛の讃歌」は素晴らしい!

 聞いてみたいなぁ。僕もこの頃シャンソンを歌っていて、今年60歳になるので記念にオーチャードホールでコンサートをすることになったんですよ。ぜひご招待させてください!

中村 それは喜びます!!

 中村さんはとてもいいご両親に育てられたのですね。

中村 家族の在り方は他の家族と比較をすることができないですし、するものでもないと思っています。私にとって、私の家族は”パーフェクト”でした(笑)。我が家は曾祖母や祖母も一緒に暮らす大家族でしたので、それぞれの役割が家族の中であり、心地よかったんです。両親は私たちが小さい頃は「子供の前でケンカをしない」をモットーとしていたようです!!
 

リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」

 
 中村さんは妹さんと弟さんの3人兄弟でとっても仲良しだと伺いました。ご両親、兄弟、素晴らしい家族に囲まれて、海外に出るということに抵抗はなかったですか?

中村 当時、海外に住むことに恐怖がなかったのは、たまたま会社も辞めて、これからどうしようと思っている時期だったからかもしれません。

 たまたま辞めていたのですか?

中村 そうなんです。彼との出会いは……偶然が3回重なって……。そして彼が東京に赴任している時からお付き合いしていました。彼がフランスに戻るタイミングで「一緒にパリに来る?」って言われたのですが、もしこの時、私が会社員だったら「イエス」とは言えませんでした。そんなすぐには辞められませんから。だけど、本当にたまたま私の生活が白紙状態で、さあて何をしようかな? って思っていた時だったので……すごいタイミングですよね。

 逆に、なぜそのタイミングで会社を辞めたのですか? 

中村 理由は一つではありませんが、体調を崩してしまったこと。そして、メディアに追われたことも理由の一つです。真実でないことが多く流されました。私の問題などは誰にも何の影響も与えるものではありませんが。私に関しての報道で言えば90%が真実とは異なっていましたが……10%の真実はある。そして、同じメディアに身を置く人間として、また会社員でもあったので反論をすることはできませんでした。

 わ、それ、めちゃくちゃ共感します!

中村 それに、その10%の真実はあまり面白くない内容(笑)。ただ、その10%に修飾語がつくと……ものすごいことになる。例えば、”二人はレストランに笑顔で入ってきました。品の良いスタイルで素敵な二人でした”という表現と、”派手な格好をした二人がイチャイチャしながら我が物顔でお店に入ってきました”では、この文章を読んだ人の受け取り方は全然違いますよね? 人の見方って……意地悪にしようと思えば、いくらでも意地悪できるのだなあと実感しました。

 あるある(笑)。

中村 いろいろな情報が操作されて作り上げられているから、それを全て信じていたら、ある時すごく驚いてしまうことがあるかも知れない。「賢く」ならないといけないと思います。物事っていろんな見方があるわけで。今は特にネットでの情報がすごいですよね。子供たちには、「いろんな情報が出回るから、できるだけたくさんの情報を見て、最後は自分で考えなさい」と口を酸っぱく言っています。何も考えずに、一つの情報だけをピックアップして、こうらしい、ああらしい、というのはすごく危険だと思うから。デマなんていくらでも溢れています。それは政治や経済も一緒。情報を鵜呑みにしてはいけない。

 しかしそれにしても、仕事をスパッと辞めてしまったこと、バルトさんと出会ったこと、フランスに来ちゃったこと、すごい変化でしたね。海外で暮らしたり、子育てするって大変だけど、フランスで良かったなってこともありますよね、きっと。

中村 そうですね。フランスは自由だし、大統領に恋人がいたってちゃんとやることやっていれば誰も何も言わないじゃないですか(笑)。

 ほんと、自由ですよね。__あっ! えっ? ちょっと待って! ごめんなさい、イカの煮込みにバジル入れるの忘れた!! これ、バジルが入らないと完成じゃないのに!!

中村 えーーー、これ以上美味しくなるの(笑)!?

 もう、全然違うのに……、残念すぎる……。今度YouTubeにレシピをアップしますから、ぜひバジルを入れて作ってみてください。(➡️「フランス風イカめしの作り方|2G COOKING」)本当にもっと美味しくなるから! ところで、中村さんは僕の料理も美味しそうに全部食べてくれていますが、食べることはお好きですか?

中村 大好きです! いつも彼が言うのですが、「女性と食事をしてもあまり食べなかったりするけど、エリコは初めて一緒に食事をした時からよく食べるし、よく飲む!!」って。西洋の方に比べると私は痩せているので「あなたダイエットしてるの?」とかよく聞かれるんですけど、そうすると彼が真っ先に「エリコは全くそんなことをしてないんだよ、すごく食べるしすごく飲むんだよ! それが彼女の魅力なんだよ」と訴えるんです。みんな体型をを気にしすぎて”美味しいものを美味しく食べる”という自然なことができなくなっているのは残念ですね。

 そうですね、僕も食べることが大好きだし、息子にもとにかくたくさん美味しいものを食べてもらいたいと思ってます。幸せの秘訣って美味しいものを美味しく食べられることなんだと思います。みんなが笑顔でいられる。中村さん、今日はキッチンまでお借りして、幸せいっぱいのお話をありがとうございました!
 

リサイクル・ザ・インタビュー「家族に生きる中村江里子、幸せの秘訣」

 
 

posted by 辻 仁成