JINSEI STORIES

退屈日記「不安でしょうがない日本の未来、何が日本を凋落させているのか?」 Posted on 2022/06/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、自分は何がしたんだ、と自問する朝なのである。
ぼくは時々、不意にこうやって立ち止まってしまう。
昨夜見た夢は、三人の広告代理店の人間との長い打ち合わせであった。笑。
ぼくはどうやら舞台演出をする予定のようで、三人は(20代、40代、60代))それに関わっている。
熱血な20代の若者はぼくを支持し、40代ははっきりとした意見を打ち出さず、60代は当たり障りがなかった。
しかし、三人がぼくに投げかけるのは、それぞれのジェネレーションからの別々の意見だったが、最終的には、ぼくがやろうとしている舞台は儲かるのか、なぜ今時演劇なんていう面倒なことをやるのか、もっと違うものをやった方がいいのではないか、という投げかけであった。
ぼくは大いに揺れていて、悩んでいた。
彼らをはっきりと説得できないまま、夢の中で逡巡し、彼らを強く言いくるめることが出来ず、最後は尿意を催して目が覚めたのである。
静まり返った寝室には、窓から薄日が差し込んでいて、最初に思ったのは、自分は何がしたいんだ、という言葉であった。
昨日、ネットニュースで、日本の26歳の若者がVTuber(ブイチューバー)の会社で成功し、「資産が1200億円」という記事を読んだ。
一方で円安は止まらず、戦争下の世界で一人負けを喫している。
イベンターの中原氏は、今の日本人はお金がないので辻さんのコンサートを日本で開催することが出来ない、とぼくに言った。(ビルボードはギャラ制なので、リスクをイベンターが背負う必要がない。有難い存在なのだ)
ぼくは彼に「オーチャードホールじゃなくてもいいから、通常のコンサートもやろうよ」と意見を言った。
でも、そういう様々な現実と状況がぼくに、こういう夢をみさせたのかもしれない。

退屈日記「不安でしょうがない日本の未来、何が日本を凋落させているのか?」



「ぼくはいったい何がしたいんだ」
と静まり返った田舎のソファの上で、朝の5時過ぎに自問を繰り返すのだった。
そもそも、もっと情けないことに、VTuberが何かわからないので、ネットで調べないとならなかった。
しかし、調べてもそれが何か、ぼくにはさっぱり分からなかった。(じじいは引っ込んでろ、と言われた気がした)
VTuberになるためには配信するキャラクターを最初に作らないとならない、とネットには書かれてあった。どうして、そんなもので資産1200億円が稼げるのか、とか、意味がわからないので、もうぼくには活躍の場がないという寂しさを覚えた。
人気ユーチューバーはどうなるんだ、と思った。
ついていけない時代に、腹が立った。
イーロンマスクさんの資産は2兆円以上あるようだけれど、世界のこの格差は、人間が多すぎるからだろう、と思った。
そういえば、人気ユーチューバーの動画を覗くと、どれだけ設けたか、自分の腕時計がいくらで売れたか、とか、お金の計算ばかりで人気を博しているように感じられなくもなく、なぜ、若い人たちはそこに熱狂するのか、やはり、年を取り過ぎたぼくには謎で、結局、時代の渦の中で行方不明になってしまうのだった。
日本はそれどころじゃないのに、と思った。
この円安は、正直、日本の終わりを物語っているのだけれど、日銀も政府も残念なことに、なんのビジョンもないように感じて、悲しくなる。
昔、日本の円は安定資産と言われていた。
戦争などがあると円が上がった。なので、円が急落した時、え、なんで、と思った。
この凄まじい円の急落は日本の終わりを意味しているのだろうか?
海外で暮らしているぼくだけれど、ぼくの収益の8割は日本からなのである。
外貨を稼ぐことがまだ出来ないでいるぼくは円が弱くなると困る。
1月、1ユーロが128円だった。もうすぐ150円になりそうな勢いである。なるような気がする。
日本からお金を送金すると、空中でどんどん消えている仕組みなのだ。
20年前、一度、1ユーロ180円まで円が落下したことがあった。ユーロが出来た年、1ユーロ100円だったのに・・・。
かつて、シャルルドゴール空港からパリに向かう道の左右の看板はすべて日本企業のものだった、しかし、今は残念なことにほぼない。
韓国や中国の企業の看板ばかりである。

退屈日記「不安でしょうがない日本の未来、何が日本を凋落させているのか?」



この急激な円安の原因を日本はわかっているだろうか?
ぼくが薄々感じているのは、政治の不在、である。
日本は国会議員がたくさんいるけれど、国益を左右できる国会議員が何人いる? 
別にぼくはフランスの回し者じゃないけれど、フランスは規模感でいうと日本の半分の国だが、政治家が優秀なので、EUを動かしたり、国のプレゼンスを維持し、超大国ではないのに、つねに国際政治におけるキャスティングボードを掴んでいる。
あるいはそういう印象がある。
簡単にいうと政治家を育てる大学が充実しているから、強いのだ。
ウクライナ危機があっても、ユーロは安定し、少子化が進む日本とは正反対で子供が多い。長期ビジョンを描ける政治集団が豊富に存在しているのに対し、日本の政治家は目先の選挙ばかりに明け暮れ、選挙になると、選挙に勝つための公約だけは勇ましく、タレント議員二世議員が乱立している印象がぬぐえない。
それは結局、日本の未来を先細りさせているだけだ。
まだ手遅れだとは思えないが、そうとう瀬戸際にいると思うし、円は簡単に安定しない気がしてならない。
ウクライナ危機が数年続く可能性が十分あるので、その被害を一番これから受けるのは資源のない、発想が鈍っている日本ということになる。

退屈日記「不安でしょうがない日本の未来、何が日本を凋落させているのか?」



ここにきて、トヨタがダメになると、日本は一気に終わるかもしれない、と思うことが多くなった。
豊田さんは素晴らしい経営力をもっていらっしゃるけれど、トヨタの車を見ていると、ちょっとだけ、心配なことがある。
ぼくごときが偉そうなことは言えないけれど、それはデザインだ。技術が凄いのに、デザインがちょっと気になる。
日産もそうだけど、日本車のデザイン力が鈍っている気がするのは、ぼくだけか。日本車だけが違う方向を向いている気がしてならない。いや、フランスの車はもっとデザインを見失っているけれど・・・。笑。

1200億円稼いでいる若い経営者が、これから何をするのか、VTuberが何かもわからないぼくは、そのSF的な世界を指をくわえて見上げているしかない・・・。
その人の成功だけに、ぼくらはおんぶに抱っこできるだろうか? その若い人たちの会社の利益はフジテレビを超えたということだけど、むしろバブルを象徴したフジテレビの凋落の方が心配でならない。
夢の中の三人の広告代理店は特に意見を持たなかった。
それは、日本にビジョンがもうない、ということを示唆していたのかもしれない。
危機感をもって、発想を転換しないとならないのは、あの三人の代理店マンかもしれない。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
お知らせを少し。笑。
エッセイ集「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」は6月30日に発売されます。現在、Amazon、書店で予約受付ているようです。笑。
そして、父ちゃんのオンライン文章教室が、26日に迫ってきました。ブロガーの皆さん、こんな時代ですが、エッセイを書くのが好きで、もっと上達したいと思っている皆さん、今回が、前期の最終回になります。まとめをやるので、ぜひ、ご参加ください。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。
良い一日をお過ごしください!!

地球カレッジ



退屈日記「不安でしょうがない日本の未来、何が日本を凋落させているのか?」

父ちゃんのYouTubeパリ・ライブ、下のURLからご覧いただけます。

Jinsei Tsuji Hitonari【Live in Paris 2022】Ver.1

https://youtu.be/syEP1_-ZPog

Jinsei Tsuji Hitonari【Live in Paris 2022】Ver.2

https://youtu.be/x1lNvaIJquA