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パリ・アート情報「パリの廃線高架下で出会う、アート工房と空中散歩」 Posted on 2025/07/09 Design Stories
パリには、観光スポットというわけではないが、地元の人に親しまれている“通な名所”がいくつかある。
そんな名所の一つとしてご紹介するのは、パリ12区にある「ヴィアデュック・デザール(Viaduc des Arts)」。旧鉄道路線を再利用した工房街で、煉瓦造りの高架下には、ガラス張りの扉を持つアトリエが数多く並んでいる。
ここには現在、約40人の職人たちが工房を構えている。手がける分野はガラスや陶器、ジュエリー、楽器、舞台衣装など実にさまざま。歩いていると、それぞれの技をのぞき見できるのも楽しいところだ。
煉瓦のアーチを壊すことなく活用しているので、建築物として見ても本当に美しい。
※建材メーカーのアトリエ。フランスの歴史的建築の修復や伝統技術の継承も行っている
工業遺産とアートが融合するヴィアデュック・デザール。そのまま聞くと少し近寄りがたいイメージだが、実は、一般の人々との距離が近いことでも知られている。というのは、いずれも作品の販売だけでなく、“制作過程の公開”や“職人との対話”を重視しているためだ。
たとえば、中世の舞台衣装を製作しているアトリエ「Un Jour dans le Temps」。ここでは衣装のレンタルサービスがあり、希望者には、メイクとヘアセットを施した状態で写真撮影も行っている。
※舞台衣装を手がけているアトリエ「Un Jour dans le Temps」
さらに毎年12月には、この工房街で「Viaduc des Arts en fête(工房街のフェスタ)」が開かれる。
これは、いつもは静かなアトリエが扉を開き、一般の人々に向けて限定品やデモンストレーションを披露するというもの。ギャラリーとは一風変わった体験ができる、興味深いイベントだ。
※ハープの工房
※高架下にはカフェも点在している
ヴィアデュック・デザール周辺の散策にさらなる魅力を添えているのは、高架の真上にある「プロムナード・プランテ」の存在だろう。プロムナード・プランテとは、工房街と同時期に整えられた全長約4.9kmの緑道のこと。旧鉄道の線路が、空中庭園として現代に生まれ変わったのだ。
緑のトンネル、バラやラベンダー、四季折々の植物が植えられた気持ちの良い散歩道。ここでは地元の人々が犬を連れて歩いたり、サンドイッチを頬張ったりする日常のあたたかい光景を目にすることができる。
見晴らしも良いので、眼前に広がる12区のオスマン建築を眺めるのもおすすめだ。
ヴィアデュック・デザール周辺には、観光地としての華やかさはないかもしれない。ただ、ここから12区の生活圏にかけてはアートギャラリーが数多くあるため、芸術が根づく街だということがよく分かる。
パリ中心部を離れると、こうしてアートを「見る」だけにとどまらない楽しみ方がある。ヴィアデュック・デザール周辺に関しては、アトリエの佇まいそのもの、そして地元の人々のリズムを感じながらぜひ訪れてみたい。
しかしアトリエの営業時間は場所ごとに異なるため、火曜〜金曜に訪問するのが安心。土・日もしくは日・月曜と休むアトリエが多いので、事前にGoogleマップや公式ホームページで確認をしてから訪れることをおすすめしたい。(や)
【Viaduc des Arts(ヴィアデュック・デザール) 】
住所:1-129 avenue Daumesnil, Paris 12e
公式ホームページ:https://www.leviaducdesarts.com/