PANORAMA STORIES
ウィンブルドン世界大会にて、 2つの緑色を混ぜることに挑戦 Posted on 2025/07/15 中村 暖 プロダクトデザイナー ロンドン
世界で最も格式高いテニストーナメントであるウィンブルドン選手権(Wimbledon Championships)。世界4大大会で唯一、芝生コートで行われる大会。
芝生のグリーンと選手のドレスコードであるオールホワイトの白色が織りなす爽やかさは、テニスシーンのラグジュアリさと厳格な伝統を作り出している。
今回、出場選手の婚約指輪を制作させていただいた繋がりでご招待いただいた。
ジュエリー(指輪)を着けたり、外したりすると重さの体感が変わる。それにより、身体の位置感覚がより研ぎ澄まされ、バランスや協調運動能力が上がると論文で発表されている。
ジュエリーは単なる誓いや装飾で無くメンタルブースターと僕は捉えている。
「デザインの力でスポーツに大きく携わる」の挑戦が中学生からの夢だったので、今回のウィンブルドンでのジュエリーによるスポーツ選手への貢献は貴重な大切な1歩。
世界中の研究機関やスポーツメーカーが0.1秒でも速く/そして0.1kgでも重くどうすればパワーアップできるのか挑戦している中で、 ジュエリーデザインは、もっと選手やプレイヤーのメンタルにアプローチできて、ここに、未来がある。
そして、スポーツシーンに欠かせない、応援の分野においても。
日本でしか作れない自然由来の生分解性素材/バイオマスプラスチックを3Dプリンタでプリントアウトし、応援グッズ、サングラスアクセサリも作った。
せっかく心から好きな選手やスポーツを応援する気持ちが、ゴミになっては美しくないよね、と。ましてや厳格なウィンブルドン世界大会。透明で美しい素材で、景観を崩さず、空間に透明のペンでメッセージを描いたような意匠空間設計となった。
ちょうど同じイギリスで開催されている、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館での「Design and Disability」(デザインと障害)の展覧会。過去も現在も障害者たちは社会におけるデザインの不平等に直面し、その不平等をどう構造的にデザインで解決するのか、歴史の中で障害者に焦点を当てること、またそれを歴史ある博物館で展示する事によるメッセージとしての展覧会だ。
ここでハッとさせられたのは、1本、ただストローが丁寧に壁に展示してある展示だ。
“2020年イギリスでは使い捨てプラスチックストローの提供及び販売が法律として違法になった。この環境配慮の取り組みはもちろん善意に基づくものだが、支援ニーズの高い障害者にとっては、重大な悪影響を及ぼしている”
リサーチと担当者に伺うと、筋ジストロフィーや脳性麻痺、脊髄損傷により、吸う事に対して力が必要な方、感覚過敏のある方、誤嚥リスクのある高齢者や嚥下障害のある方など、紙ストローの環境に良い素材性質がネガティブを超えてリスクにまで。
前向きなデザインによるチェンジが、障害者の権利を驚かしているという展示で。
今回、サングラス応援で大切にした自然由来性質のバイオマスプラスチック素材だったから良い、で終わらせてはいけないという事。
社会に善意の下、生み出すモノは、それにおける反対側までケアし、しなやかにデザインを更新し続けること。
ウィンブルドンのグリーン(芝生)地球のグリーン(環境にやさしい意味)。
今回、2つのグリーンが混ざった緑色の発色を、
僕は混ぜ続け、アップデートしていきたい。
Posted by 中村 暖
中村 暖
▷記事一覧1995年生まれ。プロダクトデザイナー。
東京藝術大学大学院デザイン科卒業。ジュエリーやシャンデリアなど、透明なビジュアルの作品制作を行う。素材のリサイクルから廃棄における透明性も意識し、ラグジュアリーの再定義を問う。
代表作品は、「Decompose Diamond」-植物から生まれた朽ちていくダイヤモンド-