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パリ・アート情報「ルノワールが愛した『印象派の島』へ。セーヌ川の小さな美術館」 Posted on 2025/07/11 Design Stories
フランスを代表する画家ルノワールは、数々の名作を残した人物だが、その中の一つに『舟遊びをする人々の昼食』というものがある。舟遊びを楽しんだ若者たちが、リラックスした雰囲気で談笑する様子を描いた作品だ。
この絵の舞台になったのは、「印象派の島(Île des Impressionnistes)」と呼ばれる“セーヌ川の中州”。パリ西郊外の街、シャトゥ(Chatou)に位置していて、パリ中心部からは電車で30分ほどで行くことができる。
さらに島の川辺には、『舟遊びをする人々の昼食』に敬意を表した小さな美術館「フォルネーズ美術館(Musée Fournaise)」があり、あの名画と同じ目線でセーヌ川を眺めることができるのだ。
レストランも併設しているフォルネーズ美術館は、まさに『舟遊びをする人々の昼食』が生まれた場所。19世紀末には、ルノワールだけでなくシスレーやモネ、ドガ、そしてマネもここにイーゼルを置いたのだという。
※19世紀後半に人気を博したレストラン「メゾン・フルネーズ」の建物をそのまま修復
「印象派の島」は当時、パリで活躍する画家たちの息抜きの場だったそうだ。パリの喧騒から逃れた彼らは、セーヌ川でカヌー遊びをしたあとに、レストラン「メゾン・フルネーズ」で昼食を取ることを“定番コース”としていた。
たしかに、この島で感じた丸みある空気はとても印象的だった。パリ西郊外は都会の雰囲気が色濃くのこる場所だが、「印象派の島」においてはまったく異なる気配が漂っていたように思う。
※当時のカヌーも再現
フォルネーズ美術館は、そんな19世紀末の社交文化・島での過ごし方を分かりやすく紹介している。ルノワールの『舟遊びをする人々の昼食』を軸としながら、セーヌ川をめぐる日常の情景に焦点を当てているところが、非常に親しみやすくもあった。
美術館の雰囲気も、明るく可愛らしく小規模ながら、随所に印象派への深い愛情が感じられる。
※ランプはなんと麦わら帽子。『舟遊びをする人々の昼食』に愛を込めて
画家たちは島の明るい雰囲気を満喫し、次々に作品を生み出したという。ルノワールに関しては、ここで30点以上の絵画を描いている。
とくに『舟遊びをする人々の昼食』では、「メゾン・フルネーズ」店主の息子や娘を含むルノワールの友人たち・恋人との風景が、美しくまばゆく描かれている。
隣のレストランではその舞台となったバルコニーが今もテラス席として使われているのだが、実際に現地を訪れてみると、不思議とあの絵がもっと好きになってしまう。
そんなレストラン「メゾン・フルネーズ」が再オープンしたのは、1990年のことだった。「メゾン・フルネーズ」の店主が亡くなってから、長いあいだ廃墟寸前の状態だった同館。しかし1982年には歴史的建造物に指定され、自治体の補助を受けて美術館とともに現代に生まれ変わっている。
※ルノワール『シャトゥの漕ぎ手たち』(コピー)
「印象派美術館」と名乗ることもなく、あくまで“画家たちが過ごした場所”としての記憶を伝えようとするフォルネーズ美術館。控えめながら頼もしいこの美術館は、わざわざ足を延ばしてみる価値がある。
とくに春から夏にかけては、印象派の“光”がもっとも綺麗に輝く季節。訪れる際は、セーヌの川辺とセットで散策するのが良いかもしれない。地元のムッシュ・マダムも散歩がてらに訪れる、素敵な島だ。(チ)
【フォルネーズ美術館(Musée Fournaise)】
所在地:Île des Impressionnistes, Chatou(シャトゥ「印象派の島」内)
パリ中心部からの所要時間:RER A線で約30分、 Chatou駅から徒歩約10分
営業時間:水曜〜日曜(※シーズンにより変動あり)
入館料:9ユーロ
休館日:月・火、および一部祝日
公式ホームページ:https://www.musee-fournaise.com/