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パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」 Posted on 2025/08/21 Design Stories  

 
フランスの美術館には、驚くほど多くの名画が所蔵されている。しかし、フランスそのものを象徴する絵画としては、おそらくドラクロワの『民衆を導く自由の女神(La Liberté guidant le peuple)』がもっとも有名なのではないだろうか。

そのテーマは、1830年に起こった“フランス7月革命”。フランス国旗を掲げた女性が市民を率いる姿が印象的で、現在はルーブル美術館に所蔵されているほか、パリ市役所の市長室にもレプリカ版が大きく飾られている。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

※ウジェーヌ・ドラクロワ。『民衆を導く自由の女神(La Liberté guidant le peuple)』は1831年のサロンドパリに出展された



 
そんなフランスの画家、ウジェーヌ・ドラクロワを称えた美術館が、パリ6区の静かな一角にある。彼が晩年を過ごしたアトリエ兼邸宅で、コンパクトながら見応えのある美しい美術館だ。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

※右角がドラクロワ美術館の入り口

 
パリに数多くある邸宅美術館のなかでも、ちょっと特別な存在であるドラクロワ美術館。展示室が「ダイニングルーム」「ベッドルーム」といった具合に分かれていて、巨匠ドラクロワがどんな日々を過ごしていたのか、その暮らしぶりが丁寧に伝わってくる。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

※「ダイニングルーム」の展示室

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」



 
とくに「ダイニングルーム」の展示室では、ショパンやジョルジュ・サンドといったドラクロワの友人たちの素描を見ることができた。小ぶりの美術館ながら、こうした“文化人同士の横のつながり”を発見できるところが本当に興味深い。
大型美術館では絵そのもののパワーに圧倒されるが、邸宅美術館では画家がどう生きたのか、どんな喜びや苦労を抱えていたのか、そういうことまで伝わってくる。ドラクロワ美術館は、こうした対比を強く感じさせてくれた場所だったと思う。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

※ドラクロワの自画像を、彼のいとこで弟子でもあったイポリット=シャルル・ゴルトロンが模写したもの(左)



 
19世紀ロマン主義を代表する画家のドラクロワ。しかし、彼の代表作は世界の大型美術館にそれぞれ所蔵されているため、邸宅スペースでは模写や小規模な作品がメインだった。
ところが邸宅の隣に位置しているアトリエスペースでは、ドラクロワのダイナミックな作品と製作過程、そして実際に使用していた絵画ツールにも出会うことができる。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

※アトリエスペース

 
アトリエスペースでは、『サルダナパールの死』や『民衆を導く自由の女神』など、有名作品のための下絵や習作が展示されていた。ドラクロワらしい躍動感あふれる絵画も数多くあり、邸宅スペースの朗らかさとはまったく違う迫力に引き込まれてしまった。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

 
ルーブル美術館やオルセー美術館に行けば彼の代表作に出会えるが、画家ドラクロワの鼓動をいちばん感じられるのは、やはりこの小さな邸宅美術館だ。
敷地内には中庭もあり、季節の草花が力強く咲いている。春から夏にかけては、ここで腰を下ろしてひと休みするのも良いだろう。
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

※細部に至るまで美しいドラクロワ美術館



 
フランスで暮らす人なら誰もが知っている名画、『民衆を導く自由の女神(La Liberté guidant le peuple)』。ドラクロワ美術館は、そんな名画を掘り下げるだけでなく、ドラクロワ晩年の暮らしぶりと、19世紀の誇り高いフランス文化に触れることができる。
あの時代からすでに200年近くが経つというのに、彼の作品から放たれるエネルギーはいまもなお圧倒的だった。(大)
 

パリ・アート情報「パリの小さなドラクロワ美術館。『民衆を導く自由の女神』とその先へ」

 
ドラクロワ美術館(Musée Delacroix)

住所:6 rue de Furstemberg, 75006 Paris
HP:https://www.musee-delacroix.fr
開館時間:月・水〜日曜日
毎週火曜日と1月1日・5月1日・12月25日は休館
入館料:大人9ユーロ、毎月第1日曜日、7月14日革命記念日は無料
 

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