欧州アート情報
パリ・アート情報「パリの中心に生まれた現代アートの聖地『ブルス・ド・コメルス』を訪ねて」 Posted on 2025/09/23 Design Stories
パリ1区にある「ブルス・ド・コメルス(Bourse de Commerce – Pinault Collection)」は、今パリで一番注目を集めている現代アート美術館の一つだ。
2021年のオープンから、まだ4年。しかし、街の中心にこれほど大きな美術館ができたのは本当に久しぶりで、誕生以来ずっと話題の中心にある。
もとは、1767年にスタートしたというブルス・ド・コメルス。かつて穀物取引所だった建物が、日本人建築家・安藤忠雄氏の手で現代風に生まれ変わった。過去と現在をつなぐ建築物としても、ぜひ一度は目に焼き付けておきたい。
※歴史的な建築と新しいデザインが融合
そして館内に並ぶのは、フランスの実業家、フランソワ・ピノー氏が集めた1万点以上の現代アートコレクション。ただし「常設展」という形はとっておらず、作品すべてが企画展スタイルで入れ替わるという。
つまりブルス・ド・コメルスでは、「一度行ったら終わり」なのではなく、訪れるたびにまったく違う出会いが待っている。そこが、他の大型美術館にはない新鮮さかもしれない。
※『Untitled』フェリックス・ゴンザレス=トレス作(1957–1996)。入館者が作品に直接関わる(キャンディをもらっていく)ことで、更新され続けるアートだという
ちなみに訪れた日は「ヨーロッパ文化遺産の日(※)」だったため、通常の展示とはだいぶ雰囲気が異なっていた。
※ヨーロッパ文化遺産の日…毎年9月、第3週目の週末に開催される文化イベント。美術館や文化施設など、普段は非公開の場所も特別に開放される。その多くが無料。
※タイトル『clinamen(クリナマン)』、ラテン語で“小さなズレ”を意味する言葉
この日、オープンしていた展示室はごくわずか。それでも、中央のドーム空間にはたくさんの人が集まり、期間限定のインスタレーションに魅入っていた。
なお直径18メートルのプールを使った作品は、フランス人アーティスト、セレスト・ブルシエ=ムジュノ氏によるもの。
※2025年9月21日までのインスタレーション。今夏のパリで大きな話題を集めた作品
数十個のさまざまな大きさの白磁のボウルが、穏やかな水の流れによってぶつかり合う。こうして自然に生まれた音はまるで鐘のようで、瞑想的ながらとても懐かしいと感じた。
水面にはガラスのドーム天井が映り、光とともにゆらゆら揺れている。これほど大掛かりで記憶に残る現代アート作品は、パリの美術館でも初めて目にした。
と、今回は限られた展示内容だったが、普段は音や映像を取り入れた作品も多い。
そんなブルス・ド・コメルスは、名作をただ見るだけの場ではなく、建物と作品、そして観る人が一緒に空間をつくっているのが特徴だ。
ガラスの天井から射す自然光も時間ごとに変わるため、館内に違った表情を与えてくれる。
※ブラジルの芸術家、リジア・パペ(1927–2004) の個展も同時開催
※3階では建築家・安藤忠雄のメッセージが映像で紹介されている
アートの幅広さも、建築物としても、非常に見ごたえのあるブルス・ド・コメルス。
日本ではルーブルやオルセーがよく知られているが、現代アートの現在形を体感したいなら、この場所を訪れる価値は大きい。新進気鋭のアーティストの作品にも出会える、受け皿のとても広い空間だ。(オ)
ブルス・ド・コメルス(Bourse de Commerce – Pinault Collection)
住所:2, rue de Viarmes 75001 Paris
開館時間:11:00~19:00(火曜休館)
チケット料金
通常の入館料:€15
26歳までの若者、学生・教職員などの割引料金:€10~
18歳未満は無料
毎月第一土曜日は夕方5時以降無料(要予約)