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パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」 Posted on 2025/10/15 Design Stories  

 
パリ、チュイルリー庭園の端、そして日の当たる場所にあるオランジュリー美術館。もとは植物の温室だったというこの場所には、モネの『睡蓮』をはじめ、多くの名作が置かれている。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」



 
『睡蓮』は、モネ自身が「ここに置くこと」を前提に描いたものだという。絵と場所がお互いを選び合ったような関係になっているので、鑑賞するというよりも、絵の世界に入る、といった感覚が近いかもしれない。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

 
キーワードが「光」というだけあって、明るい光が差し込むオランジュリー美術館。ここで見る『睡蓮』も、やはり特別だ。
間近でじっくり眺めることもできるし、少し離れて全体の構図を味わうこともできる。しんと静まり返った展示室で見ていると、睡蓮が水面にあるのか、水の下にあるのか、境界線が分からなくなってきたりもする。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※合計8枚の『睡蓮』。高さ2メートル、全体の長さは91メートルにも及ぶ

 
というように何度訪れても、毎回少しずつ違った印象を受けるモネの『睡蓮』。オランジュリー美術館はそんな『睡蓮』のために存在していて、『睡蓮』もまた、オランジュリー美術館のためだけに描かれた。
 



パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※自然光が差し込む地下フロア

 
地上階と地下で、展示のおもむきが異なっているところも興味深い。たとえば、美術館の地下で常設展示されているのは、マティス、ピカソ、モディリアーニ、ユトリロ……といった豪華で貴重な作品たち。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※ユトリロ『La Maison Bernot』

 
これらは、かつてパリで活躍した美術商、ポール・ギョームのコレクションだ。美術館では、モネの『睡蓮』を鑑賞したあとに、地下で「アートを裏から支えた人の視点」に触れることができる。
つまりここでは、絵画だけでなく、それを見出し影で支えた人たちの熱意も感じられる、二つの楽しみ方が待っているのだ。とはいえ全体の規模感はちょうどよく、混雑もしないので意外と穴場だったりする。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※美術商ポール・ギョーム。短い人生(43歳で逝去)ながら、モダンアートの普及に決定的な役割を果たした

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※ギョームのパリの自宅がミニチュアで再現されている



 
たしかにオランジュリー美術館は、「ギャラリスト」や「美術商」にも焦点を当てているという点で、かなり珍しい。ちょうどいま開催中の企画展も、「ベルト・ワイユ展」というタイトルだ。
ベルト・ワイユとは、ピカソやマティス、モディリアーニなどを早くから見出した女性ギャラリストで、当時としてはかなり型破りな存在だったらしい。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※いつも人気の高いオランジュリー美術館の企画展

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※ピカソ『青の部屋』

 
ベルト・ワイユは、ピカソを最初に取り扱ったギャラリスト。サロンに出入りする華やかな人、というよりは“現場で戦うプロデューサー”。パリの、借金まみれの小さなギャラリーで、若手や女性アーティストを支え続けたそうだ。
事実、ピカソ初の個展では評価は高かったものの、絵が一枚も売れなかったというエピソードが紹介されている。
 



パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

※マティス『最初のオレンジの静物』。当時のマティスはまだ無名で、事務員から画家へ転身したばかり。ワイユがはじめて彼の絵を販売した

 
ということで現在のエクスポジション「ベルト・ワイユ展」では、巨匠たちがまだ若き挑戦者だったころの貴重な作品を観ることができる。
もちろん、「アートを支える人(ギョーム&ワイユ)」という視点から眺めてみるのも面白い。天才誕生の裏には、必ずそれを見抜き、“つなぐ手”があったのだということに気づかされる。
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

 
オランジュリー美術館は中規模ながら、名画と、名画にまつわるストーリーを見たい人にはぜひおすすめだ。
まずは『睡蓮』で心を澄ませてから、地下にある「裏方たちのコレクション」へ。美術館を出るころには、一本の映画を観終えたあとのような満足感を味わえる。四季折々で美しく変わるエントランス前の風景も、セットで楽しんでみたい。(ち)
 

パリ・アート情報「『睡蓮』と出会うオランジュリー美術館、モネと裏方たちの物語」

 
【オランジュリー美術館(Musée de l’Orangerie)】

住所:Jardin des Tuileries, Place de la Concorde 75001
開館時間:月、水~日 9:00〜18:00
休館日:火曜日
ベルト・ワイユ展:2025年10月8日~2026年1月26日まで
 

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