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パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」 Posted on 2025/10/24 Design Stories  

 
パリの西・ブローニュの森にある現代アート美術館、フォンダシオン・ルイ・ヴィトン。10月17日からはこの場所が、ドイツ生まれの巨匠アーティスト、ゲルハルト・リヒター一色に染まるということで、足を運んでみた。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※建築としても一度は見たいフォンダシオン・ルイ・ヴィトン



 
ルイ・ヴィトン財団がこの場所を通して示しているのは、「文化への投資」なのだそう。たしかにこちらでは、ファッションブランドが運営する美術館の中でも、ひときわ強いアートへの敬意が感じられた。常設コレクションをほとんど持たず、企画展ごとにまったく異なる世界観を立ち上げているところも面白い。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※ゲルハルト・リヒター

 
そして今回開催されているのが、ゲルハルト・リヒターの大回顧展。リヒターは1932年ドレスデン生まれで、東ドイツから西ドイツに逃れ、ケルンで制作を続けてきたアーティスト。現在93歳(2025年時点)になるリヒターは、今もドイツ・ケルンを拠点に創作を続けていて、「現代絵画の生きる伝説」とも言われている。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※『Betty』1988年、リヒターの娘ベティを描いた油彩。



 
フォンダシオン・ルイ・ヴィトンのギャラリースペースをすべて使った展示では、1962年から2024年までの油彩・水彩・立体作品など、全275点が並べられている。
彼の作品はフランスでも非常に人気が高いようで、会場は熱心なアートファンであふれ返っていた。自分も、絵画と写真、抽象と写実、現実と虚構……と、境界を自在に渡り歩くリヒターの表現方法に、すっかり魅せられてしまった。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※同じくリヒターの作品

 
1932年生まれのリヒターは、若いころは“プロパガンダ絵画”を描くよう求められていたそうだ。しかし、彼はベルリンの壁ができる直前に西側へと脱出し、自由な表現を求めて新しい活動をスタートさせる。そんな中でリヒターが発表したのは、彼の代表的な作品「フォト・ペインティング」シリーズ。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※写真ではなくすべて油彩

 
一見すると、白黒写真をそのまま描いたようにリアルな絵。ところが見ると、表面がわずかにぼやけている。リヒターはここであえて絵の具をこすり、ピントを外すことで「写真は真実ではない」というメッセージを込めたのだという。
 



パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※『Rot-Blau-Gelb(赤-青-黄)』

 
かと思えば、その後のリヒターはまったく違う方向に進んでいく。グレイ・ペインティングや「Abstraktes Bild」と呼ばれる作品群は、偶然とコントロールのあいだで生まれる“絵画の痕跡”そのものを見せていた。
「わたしは抽象画を描くことで、現実の複雑さを表現している」と、リヒターはあるインタビューでも語っている。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※『Januar(1月)』



 
リヒターにとっては、「抽象と具象は対立ではない」そうで、どちらにも「真実をどう捉えるか?」という問いが投げかけられている。
さらに彼が独創的なのは、絵を描く際にさまざまな道具を使うこと。筆、パレットナイフはもちろん、アルミ板やスクイージー(ゴム製のヘラのようなもの)まで使いこなし、絵の具を引き延ばしたり削ったりしながら、数多くの作品をつくり上げてきた。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

 
リヒターの作品は現在、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やロンドン・テート、そしてこのフォンダシオン ルイ・ヴィトンなど、世界中の大型美術館に収められている。期間限定のエクスポジションも世界各地で開かれ、今なお大きな注目を集める現代アーティストだ。
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

※アート市場でもリヒターの作品はかなりの高額で取引されるそう

 
しかし、本人は名声や価格とは無縁のところで、ただ「絵とは何か」を考え続けているという。そんなゲルハルト・リヒターは、まさに描く人であり問い続ける人。彼の作品を眺めていると、大げさではなく1〜2時間があっという間に過ぎてしまう。

現実とイメージの境目を自由に行き来しながら、私たちに「見ることとは何か」を問いかけてくるゲルハルト・リヒターの絵。現在のフォンダシオン・ルイ・ヴィトンでは、こうした世界を全身で感じられる見事なエクスポジションが開かれている。(オ)
 

パリ・アート情報「フォンダシオン・ルイ・ヴィトンで現代アート巨匠の大回顧展がスタート」

 
【フォンダシオン・ルイ・ヴィトン(Fondation Louis Vuitton)】

住所:8 Av. du Mahatma Gandhi, 75116 Paris
アクセス:メトロ1番線、Les Sablons駅から徒歩10分
開館時間:月~日曜の毎日、10:00~18:00
入場料:一般16ユーロ
公式HP:https://www.fondationlouisvuitton.fr/fr
 

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