欧州アート情報

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」 Posted on 2025/11/15 Design Stories  

 
世界遺産として知られるヴェルサイユ宮殿。パリを訪れるなら、この素晴らしい宮殿にもぜひ足を運んでみたい。
ただ、ヴェルサイユという場所がさらに興味深いのは、宮殿の向こうに広がる“街そのもの”の表情にあったりする。
 

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※ランビネ美術館

 
宮殿のすぐそばに続くヴェルサイユの街は、実はかつての王が「宮廷人の暮らし」のために整えた場所。
清々しいほどまっすぐに伸びる大通り、古い石畳の小道、そしてレトロで可愛らしいブティック……。パリとはまた違った魅力があって、歩いているだけでも優雅な気持ちになる。
そんなヴェルサイユの街には、宮殿ほどの輝きは持たないけれど、訪れた人の心を少し豊かにしてくれる“もう一つの宝物”がある。ヴェルサイユ市が運営する「ランビネ美術館(Musée Lambinet)」だ。
 



パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※美術館内部

 
ランビネ美術館の建物自体は、もともと地元の名家が暮らした場所だという。生まれ変わったのは1929年のこと。最後の所有者、ナタリー・ランビネ夫人の寄贈によって、ヴェルサイユ市が所有する美術館となった。
 

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※入るとすぐに出会う、マダム・ランビネの肖像画

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」



 
ランビネ美術館の第一印象は、とても愛らしくて上品。パリ中心部に比べて来場者が少ないためか、混雑はまったくない(オンライン予約時も日にちのみで、時間の指定がなかったほど)。
壁紙のカラーも淡くやさしく、美術館なのにブティックホテルのような雰囲気。きっと、ランビネ夫人らが大切にしてきた空間なのだろう。ヴェルサイユ宮殿の華やかさが「公」の世界であるなら、ここは「私」の世界であるとしみじみ感じた。
 

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※『白いアンゴラ猫、蝶をうかがう』ルイ15世が大変かわいがり、国王の評議会のテーブルにさえ上がることを許されたアンゴラ猫だと言われている(諸説あり)

 
館内は1階〜3階まであって、主に17世紀〜20世紀にかけての絵画・彫刻・骨董品が展示されている。それだけではなく、「ヴェルサイユ市の歩み」や「当時のブルジョワの暮らし」、「フランス革命とヴェルサイユ市の繋がり」など、街の歴史を意外な角度から知ることができる展示もある。
 

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※当時のテーブルセッティング。奥に見えるハープは、マリー・アントワネットの家具職人、J.H.ネデルマンが装飾を手がけたもの

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※「金色のサロン」と呼ばれる居間、暖炉の火よけ

 
中でも今回、ひときわ魅力的だと感じたのは、18世紀の邸宅生活を再現した2階のサロン。
ここでは当時の食卓風景・居間・寝室などが、時間を巻き戻したかのように丁寧に再現されていた。
 



パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※『1792年9月9日、ヴェルサイユ市長イアサント・リショーの英雄的献身』

 
さらに3階へ足をすすめると、フランス革命前後〜近代までの、ヴェルサイユ市の歴史に関する作品に数多く出会う。
とくに革命期に関する展示は、この街とフランス革命の切っても切れない関係を強く感じさせる。革命初期の重要な出来事の多くは、ヴェルサイユ市内で起こっていたからだ。
ランビネ美術館では、そうしたヴェルサイユのもう一つの“顔”にも触れることができる。
 

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

※『大運河でスケートをする人々』※ヴェルサイユの“グラン・カナル(大運河)でスケートをする人々を描いた作品

 
もちろん、美術館はその後のヴェルサイユについても伝えている。ベル・エポック期には、作家や画家たちがノスタルジックなヴェルサイユの街に集まるようになり、「再び注目される街」として生まれ変わる。当時は多くの芸術家たちが修復が進むヴェルサイユ宮殿を訪れ、街の風景や日常を作品に残していったという。
 



パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

 
最後に、現在ランビネ美術館で開催されているエクスポジション「ポスト印象派の情熱展」についても少し触れておきたい。
一見、「なぜヴェルサイユで?」と思うが、その背景にあるのは、一組のコレクター夫妻が残した豊かな寄贈コレクション。

夫妻と当時の館長との信頼関係によって、多くのポスト印象派作品がまとめて美術館に寄贈された。ということで、ランビネ美術館はポスト印象派の“隠れた実力派ミュージアム”にもなっている。※「ポスト印象派の情熱展」は2025年10月15日から2026年2月15日まで。
 

パリ・アート情報「ヴェルサイユ宮殿と一緒に訪れたいアートスポット、ランビネ美術館」

 
ヴェルサイユ宮殿を訪れる際は、ぜひ少し足を延ばして、街が守り続けてきたこの小さな美術館にも立ち寄ってほしい。むしろ、ヴェルサイユ宮殿の前に美術館を訪れた方が、“この街のストーリー”が見えてくるかもしれない。(や)

【ランビネ美術館(Musée Lambinet)】
アクセス:54 Bd de la Reine, 78000 Versailles
最寄り駅:ヴェルサイユ・リヴ・ドロワット駅(TER L線、Gare Versailles Rive Droite)、もしくは、ヴェルサイユ・シャトー・リヴ・ゴーシュ駅(RER C線、VERSAILLES CHÂTEAU RIVE GAUCHE)
公式ホームページ:Ville de Versailles
開館時間:水・木・金 12:00‑19:00/土・日 10:00‑19:00
休館日:月・火・祝日
料金:一般7ユーロ、毎月最終日曜日は無料開館
 

自分流×帝京大学