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パリ・アート情報「バルザック記念館、ロダンやピカソを夢中にさせた作家が暮らした家へ」 Posted on 2025/12/05 Design Stories
フランス人なら誰もが知る小説家の一人、オノレ・ド・バルザック。その天才ぶりとセットでよく語られるのが、彼の破天荒な人生だ。
一日の執筆時間は15時間以上。かかえた多額の借金は、母親や愛人たちが肩代わり。美食家だけどとんでもない浪費家で、恋愛では次々とスキャンダルを巻き起こす……。
そんなバルザックは、当時のパリの新聞・雑誌でもしょっちゅうネタにされていたそうで、“呆れられつつも最後には愛された人物”だったという。

パリ16区には、作家バルザックが1840年〜1847年まで暮らした家が、今も残されている。彼は借金取りから逃げるために毎年住まいを変えていたというから、これがその中でもっとも長く滞在した場所になる。現在は「バルザック記念館(Maison de Balzac)」として公開されており、誰でも気軽に訪れることができる。

「小ぶりだけれど、とても居心地の良いミュゼ」というのが、バルザック記念館の第一印象だった。美術館としてはこぢんまりしているが、家としては十分すぎるほどに広く、かつ味わい深い趣がある、とつけ加えた方が良いかもしれない。
そんな館内では、バルザックの初版書籍や挿絵、肖像画、彫刻など、作家にまつわるさまざまな資料が展示されていた。


※彫刻家ロダンによるバルザック像
入ってすぐのサロンでまず迎えてくれるのは、世界の芸術家たちによって作られたバルザック像。19世紀の彫刻家が手がけた銅像から、つい最近描かれたモダンアート風の肖像画まで、“伝説的キャラクター”としてのバルザックが時代を超えて愛されてきたことが伝わってくる。

※バルザックの飽くなき仕事ぶりを物語る大量の原稿。右下には、コーヒーを多飲した彼が愛用していたコーヒーポットも
そしてこの記念館でぜひ見ておきたいのが、再現されたバルザックの書斎だ。彼が実際に仕事部屋として使い、1840年から1847年にかけて『人間喜劇』全編の加筆修正を行った場所としても知られている。

※ろうそくの明かりだけで作業していたというバルザックの書斎
バルザックは『人間喜劇』という巨大文学プロジェクト(※)によって、“19世紀フランスを丸ごと描き出した作家”と称されるまでになった。その驚くべき想像力と観察力は、ロダン、ピカソ、ドラクロワといった後の巨匠たちをも魅了したという。
※90作以上の小説・短編から成る作品。約2,000人以上の登場人物がいる。

※『人間喜劇』の登場人物を視覚化したイラスト・版画

※19世紀フランス社会のあらゆる層と職業を示した登場人物
実は、2025年11月19日〜2026年3月15日までは、こうしたバルザックに影響を受けた芸術家たちの創作過程をたどる特別展「Les Voies ardentes de la création(創造の燃える道筋)」が開催されている。

※バルザックの大ファンだったと言われるロダン。そのため彫刻も多数ある
展示されているのは、ロダンによるバルザック像の習作や、ピカソが描いたバルザックのイラスト、そしてベルギーの画家・アレシンスキーによる挿絵制作のプロセスなど。
これらはいずれも、「あらゆる成功は並外れた忍耐力によって育まれる」というバルザックの信念に共通したものだ。そしてロダンやピカソは、バルザックの作品と生き様に強い憧れを持っていた芸術家だった。

※ピカソが描いたバルザックのイラスト。試行錯誤した様子が展示されている
彼らは出生年が微妙にずれているため、同じ時代に生きたというわけではない。ただ、ロダン美術館やピカソ美術館を訪れると、バルザックのポートレート作品がたしかに展示されている。ある意味、バルザックは当時のパリにおける“強烈なインフルエンサー”だったのだろう。

※ロダン美術館では何体ものバルザック像が
というように小さいながらも、19世紀パリの芸術シーンに深く入り込めるバルザック記念館。背景にはエッフェル塔が少し顔を出しているので、併設カフェでゆっくりと休みながら味わいたい。

ただ、通常は入場無料だが、2025年11月19日〜2026年3月15日までは特別展開催のため、入場料(11ユーロ)が必要。それでも展示内容が非常に興味深いせいか、地元のマダムや学生など、多くの人々が記念館を訪れていた。(大)
【バルザック記念館(Maison de Balzac )】
住所:47, rue Raynouard, 75016 Paris
開館時間:火曜〜日曜、10 時〜18 時(最終入場 17:30)、月曜および祝日は休館
入場料:通常は常設展無料、企画展開催時は有料。公式HPを参照
公式サイト:https://www.maisondebalzac.paris.fr/


