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パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」 Posted on 2025/12/10 Design Stories  

 
パリ中心部には素晴らしい美術館がいくつもある。しかし、少しパリ郊外に足を伸ばしてみると、かつての要人が暮らしていた「城」が点在していて、多くが美術館や博物館として公開されている。
本日はその一つ、パリ西郊外にあるマルメゾン城についてご紹介したい。かつてのフランス皇帝・ナポレオンとその妻ジョゼフィーヌの物語が色濃く残る、とても歴史深い場所だ。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」



 
マルメゾン城は、パリ中心部から西に約12km。電車やバスを乗り継いで向かう必要はあるが、ナポレオンが国政を指揮した舞台でもあっただけに、周囲では今でも格式高い空気が漂っている。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※エントランスからすぐのところにあるダイニングルーム

 
ナポレオンの最初の妻、ジョゼフィーヌがこの場所を購入したのは1799年のこと。そこから彼女は時間をかけて自分らしい空間へと整えていき、亡くなるその日まで、ここを住まいとして大切にしていたそうだ。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※ジョセフィーヌの肖像画

 
マルメゾン城の規模は、フランスにある華やかな城館と比べると控えめかもしれない。それでも、クラシックな調度品や壁の色合い、丁寧にほどこされた壁画装飾などに目を向けると、ジョゼフィーヌの美的センスがいかにすぐれていたかを自然に感じ取ることができる。
 



パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※品の良さが際立つマルメゾン城

 
たとえば、この部屋の天井に描かれたこまやかな模様。ナポレオンの時代(19世紀初頭)は、ポンペイ遺跡の発掘ブームがヨーロッパを席巻していた頃。というわけで当時のフランスの上流階級も、古代ローマ・ポンペイのデザインをこぞって取り入れていたという。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※ナポレオンが使っていた書斎室

 
個人的に印象に残ったのは、マルメゾン城1階奥にある「書斎室」。ここはナポレオンが戦争の研究を重ね、数々の決断を下した場所なのだそう。たしかに、これまで通ったサロンとは打って変わって、空気がぐっと重くなる。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※ナポレオンは後に流刑になるが、旅立つ前日にこの書斎室を訪れ、かつての栄光を振り返ったそう



 
マルメゾン城全体は、ジョセフィーヌの好みで整えられた柔らかな館だが、書斎室だけは明らかにナポレオンの領域だ。ストイックで、彼女のフェミニンな雰囲気とは対照的で、そのギャップが中々に興味深かった。
ちなみにフランスの「レジオン・ドヌール勲章」は、こちらで創設案が出されたと伝えられている。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

 
そしてもちろん、城にある美術品の数々も見逃せない。ナポレオン夫妻の住居というだけあって、とくに多いのが肖像画。マルメゾン城にある肖像画の数は、ほかの城や館と比べても群を抜いて多い。
というのもナポレオンの時代は、肖像画こそが政治的・社会的な権威を示す手段だったため(肖像画が多ければ多いほど権力者、というように)。
新古典主義、ロマン主義の絵画も多く残されていて、美術ファンにとって見応えのある空間が続く。
 



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※ジョゼフィーヌが収集していた陶磁器コレクションの展示も

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※皇后の寝室

 
最後に、ぜひ見ておきたいのが「皇后の寝室」だ。ここは、ジョゼフィーヌが最後に息を引き取った部屋。その調度品は素晴らしいの一言に尽きるのだが、彼女が日々使っていたという「化粧用品セット」にも思わず目がとまる。夫、ナポレオンの肖像画がここにも小さく残されていたからだ。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※化粧用品セット。蓋付きコンパクトにはナポレオンの絵が

 
ナポレオンとジョセフィーヌは1810年、子に恵まれたかったことを理由に離別している。若い頃は奔放だったというものの、晩年にはナポレオンへの思いを深めていったジョセフィーヌ。そんな背景を知ると、離婚後も手元に残したこの化粧箱に、彼女は日々なにを思っていたのかと想像してしまう。
 

パリ・アート情報「ナポレオン夫妻の物語が残る、マルメゾン城美術館を訪ねて」

※城の周りには広大な庭が広がる

 
というように、マルメゾン城はベルサイユ宮殿の壮大さとは異なり、ジョセフィーヌの美意識が残された思慮深いミュゼになっている。華やかさよりもなぜか親密さがただよう、不思議な空間でもある。
訪れた日はあいにくの曇り空だったが、よく晴れた初夏の日には、ジョゼフィーヌが世界中から集めたというバラ園を散策するのもまた楽しい。(大)

【マルメゾン城(Château de Malmaison)】

住所:12 Av. du Château de la Malmaison, 92500 Rueil-Malmaison
公式サイト:https://musees-nationaux-malmaison.fr/chateau-malmaison/
アクセス:RER A線 Rueil‑Malmaison 駅で下車、徒歩約20分。または La Défense 駅からバス258番に乗り換え、Le Châteauで下車
開館時間:水曜~月曜、10:00~12:30、13:30~17:45(土日 10:00-12:30、13:30-18:15)、休館日:火曜日
 

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