欧州アート情報
パリ・アート情報「パリで開催中、無料の“アールデコ展”で美の歴史100年を振り返る」 Posted on 2025/12/18 Design Stories
古い時代のパリを語るとき、よく耳にする「アール デコ(Art Déco)」という言葉。もう少しで終わってしまうが、今年2025年は、そんなアール デコの記念すべき年でもあった。1925年にパリではじめて開催されたアール デコ博(現代装飾・産業美術国際博覧会)から、ちょうど100年にあたる年なのだ。

現在のパリでは、その記憶をたどるエクスポジションがいくつかの場所で開かれている。本日はその一つとして、2022年にルイ・ヴィトンがパリにオープンした文化体験スペース、「LV Dream」で開催中の無料エクスポジション「ルイヴィトン・アール デコ展」をご紹介したい。

※エクスポジションは入場無料だが予約が必要

実はアール デコには、「この人が、このブランドが最初につくった」と言えるような、はっきりとした始まりがないのだそう。どちらかというと、“1920年代のパリ自体”が、この新しい美的センスを「時間をかけて育てていった」感覚に近い。好まれたのは、直線的でシャープ、シンメトリーでリズムあるデザイン、そして植物のモチーフなどだ。

※ヴィトン家のアール・ヌーボー装飾
戦争を終えたばかりの街で、失われた日常を取り戻すため、未来へ進む明るさを手に入れるため。人々は、暮らしのそばで心を満たしてくれる「圧倒的な美」を求めていた。
そしてフランスは、貴族の時代から続く高度な職人文化が根付く国。一方で、戦後の社会では合理性・スピード・機能性が人々から必要とされた。アール デコは、そんな伝統とモダンの「折り合いの美」と位置づけられるだろうか。
ということで1920年代のパリでは、家具や身のまわりの小物、建築物にいたるまで、日常そのものが表現の場になっていった。

※100年前の現代装飾・産業美術国際博覧会のポスター

※入場チケットのデザインも素敵
「ルイヴィトン・アール デコ展」では、そうした装飾芸術に関する300点以上のオブジェやアーカイブ資料が、8つのテーマ別サロンに展示されている。内容は、当時の広告デザイン、ファッション、旅行ケース、そしてビューティーアクセサリーといった、美しくもニッチなアール デコ・アイテム。
100年前の博覧会で展示されたメゾン・ルイヴィトンのトランクなどもあって、芸術色の濃いオブジェが驚くほど多く並んでいた。

サロンでは、1920年代の女性たちを映した写真もいくつか展示されている。100年経ってもなお(むしろ100年経っているからなのか?)スタイリッシュな世界に、現代の美意識をつい重ねてしまう。
ちなみに、こうした写真や広告が20年代に多かったのは、アール デコが女性の自立・美意識の変化と強く結びついていたからだそう。それ以前のフランス女性はきついコルセットで身体を縛られていたというから、少しゆったりしたファッションが多いのも「なるほど」と頷けた。

※ファッション、旅行ケースの展示も多数

※香水瓶やブラシがセットされた「ビューティートランク」
さらに展示空間を歩いていると、100年前の人々が「旅」にどれほど夢を託していたかが伝わってきた。トランクやビューティーケースといった、持ち運べるアイテムが豊富に並んでいたのだ。
たしかに、当時の人々にとっては列車、船、自動車と、移動手段が進化することは、そのまま人生の可能性が広がることだった。現代でも旅には大いにときめくのだから、新しい移動方法にどれほど心を踊らせたことだろう、と想像する。そう考えると、アール デコは「飾るため」ではなく、「暮らしの小さな目標」としても機能していたのかもしれない。

サロンの終盤では、アール デコならではの広告デザインが、格子のようなディスプレイに展示されているのを目にする。これらは、ガストン・ルイヴィトン(メゾン創業者の孫)が、自社の商品のためにデザインしたものだという。
1920年代は、広告が大きな発展を遂げたときでもあった。ここでもまた、アール デコ調のデザインが一世を風靡していたことがわかる。これほどまでに愛されるとは、フランス人の感性に深く響くなにかがきっとあったのだろう。

※「LV Dream」の入り口はパリのデパート「ラ・サマリテーヌ」の向かいに
2025年9月から始まった今回のエクスポジションは、2026年に入ってからも引き続き開催されるという(最終日は未定とのこと)。
入場料は、繰り返してしまうが無料。ただ人気ともあって、公式サイトから事前予約が必須なので、訪問の数日前には済ませておくことをおすすめしたい。(ち)
【ルイヴィトン・アールデコ展(L’exposition Louis Vuitton Art Déco)】
住所 : LV Dream – 26 Quai de la Mégisserie, Paris 1er
開館時間:火曜~日曜、11:00~20:00
予約: www.louisvuitton.com
入場料:無料


