欧州アート情報

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」 Posted on 2026/02/04 Design Stories  

 
パリでは、アートを大切にする人々の思いというものを、街のいたるところで感じる。
著名な美術館と、歴史に名を残す芸術家たちの作品と、興味深いエクスポジションの数々。そして、そうしたクリエイションを支えてきた「画材店」という存在も、大切な文化の一つになっている。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

 
たとえば、セーヌ川沿いにある老舗画材店。ここは、どんな季節でも歩くことが苦にならない、本当に気持ちの良い場所。あたりには画材店だけでなく、アートギャラリーや額縁店などが軒を連ねていて、他のどの地区にもない美しい空気が流れている。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」



パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

 
その中で、吸い込まれるようについ入ってしまうのが、1887年創業の老舗画材店「Sennelier(セヌリエ)」だ。昔ながらの佇まいと、おびただしい数の画材がならぶその雰囲気は、月並みな言葉かもしれないが、訪れる人を古のパリへとタイムスリップさせてくれる。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

※天井まで届く陳列棚にアンティークのガラスケース。絵の具の匂いも漂う店内

 
そんなSennelierは、ヨーロッパでもっとも古い画材店の一つなのだそう。創業者のギュスターヴ・セヌリエは、化学を学んだ上で「光に強く、時間が経っても色褪せない絵の具」をつくり出し、パリに暮らすプロの芸術家向けに販売していたという。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

 
19世紀後半〜20世紀はじめにかけてのパリでは、画材店がその場で絵の具を練ったり、画家の好みに合わせて配合を変えたりすることが、ごく自然な光景だったと聞く。絵の具がまだ十分に工業化されていなかったためだ。
そうした環境下で、画家との距離がもっとも近く、彼らの要望を製品として残したのが(オイルパステルなど)Sennelierだった。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」



 
現在のSennelierでも、オリジナルの絵の具・パステルがならぶ光景は変わらない。しかし、置かれているのはそれだけにとどまらない、ありとあらゆる画材道具だ。
筆、スケッチブック、キャンバス、色鉛筆にカラーペン、そして墨汁、日本画の顔料まで(!)。どの引き出しにも宝物のようなアイテムが収められていて、一つ一つ開けて心の中で驚いているうちに、時間があっという間に過ぎ去ってしまう。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

※レジカウンターに並ぶオリジナルの水彩絵の具と、日本画の顔料

 
ところどころに日本製の道具がならんでいるのも、パリの画材店の特徴だと感じる。おそらく、日本製品への信頼の証なのだろう。
日本の色表現はとくに繊細で、「曙色」や「朽葉」といった名前は、フランス人にも響きそうな詩的なニュアンスがある。フランス製の絵の具でも「Ombre calcinée(焼かれた影)」のように、色名に情緒を込める表現があって、日本語と通じるおもしろさを発見した。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

※日本の顔彩

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

※フランス製、装飾用の水彩インク。「Ombre calcinée=焼かれた影」



 
ちなみにSennelierのスタッフに伺ったところ、日本製のアイテムはやはり高い人気を誇るとのこと。日本画を描くというフランス人も、少数ながらたしかに存在するそうだ。
訪れた日の店内もアート愛好家で活気にあふれ、スタッフの方々が丁寧にアドバイスをしている様子がとても印象的だった。
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

※クリエイターたちの寄せ書き。奥にはかつてのSennelierの写真も

 
Sennelierが創業された当時、パリには600以上の画材店があったという。ところが現在では、路面店は指で数えられるほどに減ってしまった。
とはいえ、こうした画材店はアートを大切にする人にとって特別な存在である。手で触れ、匂いを感じ、素材と向き合う時間。チェーン店や即日配達が当たり前の時代にあっても、クリエイションに不可欠な「人の感覚」が、パリの画材店にはあった。(る)
 

パリ・アート情報「アートを支える存在、パリの老舗画材店」

自分流×帝京大学