ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「空想ごっこ」 Posted on 2026/04/23 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
さっそく、相談窓口を開店させて頂きます。
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匿名希望Kさん
「もともと、何事も猪突猛進な私ですが、思いがけない身体の不調から、ここ2年ほど思うように動けず悶々としています。体調と仕事の両立が厳しくなり、ストレスもあり会社を辞めました。仕事を辞めたら回復するかなぁと気楽に考えてましたが、治療がうまく進まず、頑張ってきた気持ちもしんどくなりました。 今、出来る事に感謝しなきゃとは思っていますが、日々なんのために過ごしているんだろと、悲しくなってしまう事があります。元気だったら…と、今すぐはできないけど、やりたい事をたくさん考えてしまいます。 人生の大波小波を乗り超えてきた辻さんは、思うように身動きがとれない時、どのように過ごしてきましたか?または、そっと応援の言葉をもらえるだけでも嬉しいです」

おこたえしまーす。
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「はい、ご病気が身動きがとれない原因なので、まずは、焦らずに回復に専念してもらいたいです。ご自分の人生優先で、そのためには健康を取り戻す任務がある、と思って、大変であっても、お医者様と相談をし、まずは最善を目指して、療養されてください。その中で、次のご質問にお答えしたいと思います。『人生の大波小波を乗り超えてきた辻さんは、思うように身動きがとれない時、どのように過ごしてきましたか?』そうですね。大波小波ありましたね。とくに大波はこちらが思ってもいない時にやってくることが多いものです。それでこのくらいの年齢になりますと、ある程度、仕方ないこと、や、しょうがないこと、というものがあることを悟ることが出来るようになりました。焦ってもしょうがないし、頑張っても無理な時は、流れに身を任せるような感じで、逆らわないで生きる、のがいいのかな、と思っています。あなたは病気で2年も思うようにやれない、ということですから、ぼくの場合よりももっと大変ですね。身体的な理由だけじゃなく、心が思うように動けない時などもきついですよね。そういう時、空想世界ですこしふわふわと漂ってみる、のがいいのかもしれません。ぼくは、様々な事情で仕事が出来ない、仕事が奪われた経験が何度かあります。自分がいけないんでしょうが、たとえば、子育てに専念しないとならなくなった時、メディアにさんざ悪く扱われて仕事がなくなった時とか、そういう時には、非現実の中に自分をおいて、そこで空想を広げて、遊ぶというか、好きなことを考えたり、お金にもならないけれど、何か役立つことをして、ほとぼりが冷めるのを待ちました。ぼくの場合、小説家ですから、子育ての合間に、つまり子供が学校に行っているあいだとかに、小説を書いたりしていました。あと、コロナ禍の時期、あれが一番きつかった、厳格なロックダウンがあり、息子と二人でしたが、家から出られなかったので、現実と向き合いながらも、かげで、絵をいっぱい、描きました。小説は仕事だったので、それすら苦痛になり、欧州においてコロナ禍は、あまりに絶望が大きかったからですね、とにかく、好きだった絵をいっぱい描きました。あの時期、100枚くらい描いたんじゃないか、と思います。画家になろうと思ってやったことじゃなく、ただ、何も出来ない状態に置かれたので、小説を書くのも、難しかったので、キャンバスに光をぶつけたんです。小説って、やっぱり、日常の中にいて非現実を書くものだからですね。絵は、違いました。今でこそ、仕事になってしまいましたが、コロナ禍の第一次ロックダウンの時は、たまたま、好きで描いていた絵だったので、油絵具もキャンバスもたくさんあったので、無我夢中で描きまくりました。画材がなくなるとネットで取り寄せ、描きました。50枚、100枚、と増えていくんですが、コロナが明けつつあるときに、それを日本画家の千住さんに見せたことで、思いもよらず画家の仕事が舞い込むことになります。その後は皆さんが知っての通りです。コロナに感謝することはないですが、身動きの取れない時期に、空想世界に本気で没頭出来たことは、大きな未来を連れてくるいい結果を招き寄せました。ぼくもいろいろ身体的な病を持っています。突発性の難聴のせいで倒れて頭を打ち、手術したこともありましたね。その手術中も、その後の集中治療室でも、頭の片隅で、空想ゲームをやって、詩とか、音楽を考えていました。集中治療室のぼくの横で亡くなった青年がいたんですが、その人と一晩一緒でした。ものすごい非現実的な世界でしたが、その時も、こういう絶望的な経験が自分に与えるものは何だろう、と考えていました。頭に穴があいていたんですが、塞がるまでに、作品の輪郭が一つ出来ています。ぼくはそれを仕事じゃなく、命を与えられた人間の使命のように思って、形にしたんです。それ以降、逆境の中にいると、空想を信じるようにしています。『空想の力ごっこ』、と呼んでいます。さて、こんなアドバイスでもよかったですか? まずは、復調に向けて無理をしないで、休むことを心がけてください。そして、暗くならず、心の中に美しい水面をイメージし、そこで遊んでみてください。あなたのマインドは開かれているし、限りなく広い空域、原野があなたの心と頭の中にはあります。そこで、回復を待ちながら、空想ごっこ、をしてみてくださいね」


近況のようなもの。
ぼくは今、ノルマンディで三四郎と生きています。あれから、ずっと絵を描き続けています。もっともっと描き続けます。絶望の中、希望を探すゲームの中にいました。息子には、「火星に行くミッション」と言ってました。だから、もう少し、ここで頑張ろう、と・・・。あれから、何年が過ぎたか、息子は大学を卒業する年齢です。ぼくは、夏の三越日本橋本店での個展に向けて頑張っています。8月5日から、11日まで、だよ。
えいえいおー。






