ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「こどもを持つか持たないか」 Posted on 2026/05/15 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
さっそく、相談窓口を開店させたいと思います。
正直、この相談にはっきりとした回答はないのですが、ぼくの個人的な考えを一方的にお伝えさせて頂きます。

匿名希望Aさん
「結婚して6年目になりますが、子どもがいません。子どもを作る気持ちになれないのは夫が大きな病気になったことが要因の一つですが、ほかに将来への漠然とした不安や、世の中が間違った方向に進んでいるような気がして、どうしても自信を持って子どもが欲しいと思えないのです。それでも、子どもがいる人生への憧れは捨てきれません」

辻村相談窓口、「こどもを持つか持たないか」

おこたえしまーす。

「結婚をされて、6年なんですね。あなたが今、何歳かわかりませんが、子供を持つか悩んでいる年齢であることから、ある程度は推察して考えたいと思います。ご主人が大きなご病気である点、さらに、先の見えない世界の不安から、子供を持つ気になれない。そもそも結婚を望まない人も増えているというので、ぼくが想像するよりも、この問題で悩んでいる人は相当多いんじゃないでしょうか。そして、「それでも、子どもがいる人生への憧れは捨てきれません」という最後の一行が、心に響きました。この問いかけにそもそも正解はないでしょうね、ぼくが簡単にこうしたらどうですか、と意見を述べるのもどうか、と思います。だいたい、一般的な正論というようなものは、この問いかけには通用しません。だから、みんなの正解をここでは探さず、自分が納得するかどうか、をご自身で決めるしかないということでしょう。正直、たいへんに難しいご相談ですが、ぼくはこの相談に出来る限りこたえてみたい、と思って、これを今、書かせてもらっています。ぼくの意見に反発もあるかもしれませんが、どうぞ、最後まで読んでください。

そもそも、人間って、なんでしょうね。なぜ、今、ぼくらは人間をしているのか、ということを少し考えてみましょう。誰かが「お前人間をやれ」と命令されて人間になった人はいませんよね。たぶん。気が付いたら、すでに人間だったんじゃないですか? このように、人間というのは、誰一人、自分の意思で、この世に出てきた人はいない、ということになります。少なくとも、今現在生きている人間は、物心がついた時からしか、自分の人生を選択できないので、生まれたのは、定め、のような見えない力によるものじゃないか、と想像します。ぼくは信仰がないですが、信仰によっては、神様の導き、と言われるかもしれない。どちらにしても、自分で選んだ人生ではないが、人間は物心がついてから、その人生を歩くようになります。そこで、考えられることは、ぼくら人間は自分の意思でここにやってきたわけではない、ということで、しかし、物心がついた時から、人間はみんな「生きる」ことを受け入れ、どう生きたいか、と考えはじめる動物だということ。たぶん、みんな、ある時から、どう生きるか、悩んだと思います。
あなたの場合、ご主人が大きな病気をされました。不安がある。さらに、今の世界はぐしゃぐしゃで、未来が不安定です。だから、あなたは悩んでいる。ネガティブな問題が山積です。でも、文脈からだと、産もうと思えば産める状況にある、ということかな、と思います。あなたたちは意思を持って、現在お子さんをもうけることを選択していないわけですね。でも、「それでも、子どもがいる人生への憧れは捨てきれません」と考えている。そうなると、大事なことは、産むか、産まないか、ではなく、あなたはどうしたいのか、をあなた自身で、まず導きだすしかないということです。不安は大きいと思いますから、無理強いはしません。そもそも、人間は誰も、自分で選択をしてこの世界に出てきたわけでもないんですからね。気が付いたら(物心がついたら)、生きていたんです。ただ、様々な出来事が重なり、あなたは母親のおなかに宿りました。不幸な出来事の中で産み落とされた人もいます。親が離婚をすることもあります。でも、あなたは今、生きています。そして、意思があり、自分で自分の人生を選んで生きています。世の中が不安ということでしたが、人類は紀元前から現在まで、不安の繰り返しで、実はその不安は今だけのものじゃありませんでした。戦時中にも、人間はたくさん生まれています。ぼくがあなたにアドバイスというか、言いたいことは、産む、産まない、ではなくて、あなたがどう生きたいか、だけです。その子がもしも宿り、生まれてきた場合、そこからは、その子が自分で決定していきます。それが人間なんです。ぼくの母親は90歳を超えて今、死の手前で一生懸命リハビリをしています。ぼくには息子がフランスにいますが、先月、母を見舞いに福岡まで行ってきました。それは、ぼくの決定に彼が従ったことじゃないんです。彼が自分で決めて会いにいきました。母も孫が不意にやってきて、とっても喜んでいた、ということです。ぼくの意思ではないんです。生きたら、人間が自分で自分の人生を持って判断をしていきます。世界は今、確かに、不安だらけの世界ですが、その中でも、状況が厳しくても、あなたが育てたい、と思うかどうか、が大事です。ぼくは離婚のあと、耳を塞いでただ必死で育てました。仕事もその時期はなくしましたが、そういうことを考える暇さえありませんでした。それでよかったかどうかは、分かりませんし、大変だったので、それをあなたに押し付けることは出来ません。つまり、あなたは、自分がどうしたいか、をまず、あなた自身で決断する時期にいるということです。そして、もしも、子供が宿って育てることになったら、それはもう、その子の人生です。もちろん、アシストはし続けないとなりませんが・・・。人類は、そうやって、今日まで人間をやっています。ご主人のご病気が現在、どうか、そこが分かりませんし、総合的に判断をする必要はありますね。まず、二人、ご夫婦が生きていく上で大丈夫か、も大事ですから、よく考えてください。あまり、まとをえた答えになっていないと思います、ごめんなさい。でも、あなたが、どう生きたいのか、が最も大事な問題になると思いますし、子供を持つこと、持たないこと、で何を得られるか得られないか、という損得ではなく、まず、あなたがどうしたいのか、を見極めることだけがこの場合、大事だと思うのです」

辻村相談窓口、「こどもを持つか持たないか」

近況のようなもの。
8月5日から11日まで、三越日本橋本店、特選画廊にて、大個展。一週間、三越内に、辻仁成美術館をオープンさせます。

辻村相談窓口、「こどもを持つか持たないか」

帝京×パリ・オンラインアートカレッジ
辻仁成 Art Gallery

辻村相談窓口、「こどもを持つか持たないか」