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パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」 Posted on 2026/11/01 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

 
パリ16区のシャイヨー宮で、10月22日と23日の2日間、日本の工芸を紹介する展覧会「JAPAN SUI COLLECTION」が開かれた。「SUI」は漢字で「粋」、今回のテーマは金と銀だ。会場には60点近い作家、工房の作品が並び、伝統工芸の技とモダンアートの感性が交わる作品が多い。フランスの現代アートコレクターに向けた、2日間のみという特別な展覧会だった。

会場全体をプロデュースしたのは、照明デザイナーとして名高い石井幹子さんと、同じく照明デザイナーの石井リーサ明理さん母娘。
石造りのアーチ天井が美しいシャイヨー宮の屋内空間は、照明によって左右で色分けされていた。左手は温かみのある光で「金」、右手は青みを帯びた光で「銀」を表現し、並ぶ作品もそれぞれの空間に合わせて金と銀に分けられている。
「金は錆びず、時を超えて変わらない永遠の象徴。銀は、空気や手の汗、時間に反応する変化の象徴。この二つの流れが日本の美意識の歴史を形づくり、いまも作り手たちの仕事に息づいている」と、リーサさんは語る。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※展覧会のプロデューサー、石井リーサ明理さん



 
アーチの奥では、太陽から月へ、月から太陽へと、ゆったりと移ろう映像が流れる。「金の系譜、銀の系譜」というテーマを、空間全体で体感できる。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※石造りのアーチの奥に浮かぶ、太陽と月がうつろう映像

 
効果的な照明に照らされた展示の中で、特に注目を集めていたのが道明の組紐だ。
道明は、東京の上野で1652年に創業した組紐の老舗。現当主は10代目で建築家でもあり、父は数学者、祖父は歴史的な組紐の復元に携わったという。上野の店頭には帯締めだけで約500種が並び、毎年約50種の新作をつくるが、定番に加わるのは3、4種だけという厳格さ。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※展示用に透明な樹脂で作られた角台と丸台

 
組紐は、複数の糸を斜めに交差させて組む、立体的な構造の紐。伸縮性と強度に優れ、もとは仏具や武具、調度に使われ、明治以降は着物の帯を留める帯締めにも用いられた。紐を組むための機具は本来は木製だが、今回の展示用に、糸の動きが見える透明な樹脂でつくられていた。その見せ方自体も魅力的だ。金糸の亀甲柄は「長寿と繁栄」を意味する吉祥の柄。銀糸のさざなみ組は、水面の揺らぎを映して控えめに光を放つ。
今回の展示作品選びを行ったキュレーターの橋本麻里さんによると、紐の動きを予測し組み立てるのは数学の領域でもあるという。先代が数学者という点にも結びつく。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※組み方で見た目だけでなく伸縮性や強度が変わる



 
展覧会に訪れていた南仏のガラス作家のふたり、アントワンさんとエミリーさんにお気に入りを尋ねた。「すべてが伝統と深くつながり、詩的で素晴らしいので選べない」と言いながらアントワンさんが挙げたのは、滋賀・信楽を拠点に活動する橋本知成さんの陶芸だ。
金属に見えるが陶器で、粘土のひもを積み上げる「紐作り」という技法を用い成形し、金属酸化物を多く含む釉薬を用いる。焼成中の酸化と還元によって、玉虫色の複雑な光沢が生まれる。
展示作品は角のある立体で、見る角度で金や青、桃色の層が移ろう。大きいものでは2メートルに及ぶ作品も手がける作家だ。「地平線、山、空と、いくつもの層が見え、絵画のよう。想像力を掻き立て、遠くの景色へといざなってくれる」と彼は語った。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※橋本知成さんの作品の前のアントワンさん

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※エミリーさんのお気に入りは道明の組紐

 
会場には、ほかにも見どころが多い。京都を拠点とする金属作家、鈴木祥太さんの「Dandelion Fluff」は、極細の真鍮線でタンポポの綿毛が飛び立つ瞬間を表した。鈴木さんは植物を主題に、変わらない素材である金属で移ろうものを表現する作家だ。硬い金属から風に揺れる軽さが伝わり、次の瞬間だけでなく、植物の変化と命の受け渡しまで想像させる。会場を訪れていたアーティストのバルテュス節子さんも「硬いとされる金属でこのような柔らかい表現ができているのが印象的」と注目。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※鈴木祥太さんの「Dandelion Fluff」の前でバルテュス節子さん



 
池田晃将さんは螺鈿作家。螺鈿は貝の内側の層を磨いて、薄く削り取り、漆の器などにはめ込む伝統技法だ。彼は、見る角度で色が変わる輝きを電子画面の信号に重ねる。
漆の層に、レーザーという現代的な技法でで切り出した数字や線を貼り込み、伝統的な手仕事にテクノロジーの息吹を吹き込む。平安時代の人が当時の流行作品だった『源氏物語』の場面を螺鈿にしたように、現代のゲームや漫画のデジタルな世界観をそこに表現している。
 

パリ・カルチャー情報「金と銀の系譜、パリを魅了した日本の「粋」」

※池田晃将さんの「Infinite」はよく見ると細かな数字が並ぶ

 
また、Tochi designのHARIGANEは、京都・丹後で生まれた金属の布だ。創業者の豊島美喜也さんが、金属メッシュ工場の設計に関わった際、捨てられる特殊な編み目を目にしたのが発端だという。ステンレス線と銅線をジャカード織機で織り上げている。金属でありながらも、有機的な質感で温かみがあり、フランスの高級メゾンやホテルで空間展示材として採用されている。
 

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※Tochi designのHARIGANE

 
変わらないことの尊さと、変わり続けることの美しさ。そのどちらもが、日本の工芸が持つ確かな力である。伝統を守りながらも進化を恐れないクリエイターたちの挑戦は、時代や国境を超えて、人々の心を静かに揺らし続けている。
 

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