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パリ最新情報「エアコンを持たないパリ市の熱中症対策。健康とエコの両面で対応へ」 Posted on 2022/06/21 Design Stories  

6月18日、フランス各地が前代未聞の熱波に襲われた。
パリでは最高気温が38度、バスク沿岸では42.9度と過去最高を記録。その他ボルドーなど南西部でも40度を越すところが相次いだ。
いずれも記録を塗り替える暑さで、フランス各紙はこの異常気象を大々的に報道。さらには最高気温だけでなく、最低気温が平年より大幅に高かったことも注視された。

フランス、特にパリなど歴史的建造物を持つ都市部ではエアコンが常備されていない。
壁に穴をあける工事が簡単にできないのと、温暖化を助長するとして人々が敬遠するためだ。そのため避暑対策として一般的なのは、ボレ(雨戸)を閉め切って熱風を遮断する方法もしくは扇風機である。

ただ、熱波が長く続かないというのも特徴だ。「ここまでの高温は年に2、3日だけだから」と暑さを我慢する国民は実のところとても多い。
しかし高齢者や幼い子供にとっては、例え一日でも危険であることに変わりはない。
こういった事情を鑑みて、パリ市を中心とした都市部で新しい熱中症対策が急ピッチで進められている。

パリ最新情報「エアコンを持たないパリ市の熱中症対策。健康とエコの両面で対応へ」



パリ市では、セーヌ川の水を利用した冷却システムが採用されている。
セーヌ川の水はひとまずアンヴァリッド橋の近くにある工場で冷却され、パリ市内800以上の公共施設の地下を通って空調設備に供給される。
パリの地下には、これらの建物をつなぐパイプが数十キロにわたって何年も前から張り巡らされていたというのだ。
今のところルーブル美術館や大型ホテル、老人ホームなどが該当しているが、2042年までにネットワークを158km延長し、パリの全区画にサービスが提供されるという。
従来の空調設備よりCO2の排出レベルが格段に低く、エコロジーであるのが利点だそうだ。

パリ最新情報「エアコンを持たないパリ市の熱中症対策。健康とエコの両面で対応へ」



パリ市はさらに、「霧のミスト」を増設することも発表した。
以前パリ最新情報で「炭酸水も出る水汲みポイントが市内にいくつもある」と紹介させて頂いたが、そこに“冷水の噴射器”が新たに取り付けられることになった。

パリ最新情報「エアコンを持たないパリ市の熱中症対策。健康とエコの両面で対応へ」

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ミストの設置場所は現在、市内24か所。150年の歴史を持つパリの水飲み場「ウォレスの泉」も含まれる。システムはいたってシンプルで、手動もしくは暑さのピークに応じて10分おきに霧が噴射されるというものだ。パリ市はこれを徐々に増設し、オリンピックが始まる2024年夏までに100台の設置を目指しているという。

霧のミスト効果は意外にも大きい。フランスでは夏の間、熱さまし用に天然水のスプレーミストがよく利用される。
熱がこもりやすい後頭部に浴びるだけで暑さが和らぐので、熱中症を防ぐアイテムとして重宝されている。今回パリ市が設置したミストは勢いも良く効果抜群のため、地元パリジャンだけでなく観光客にとっても嬉しい装置となりそうだ。

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※飲み水も汲めて、ミストも出る「水のトーテム」。

なお給水に関しては、屋外の他にカフェ、レストラン、食品店、花屋、眼鏡屋など、市内600の店舗がパリ市に協力している。いずれも人々に飲み水を無料で提供しており、夏以外のシーズンも継続する意向があるという。これはパリ市民でなくても全員が利用できる。

「今後数年のうちに、パリの気候は南スペインと似たものになるでしょう」
と、パリ副市長で冷却システムの代表を務めるダン・レール氏は仏紙Le Parisienに意見を述べた。これから我々は南欧の都市のような生き方を学びつつ、エコロジー化を加速させなければならない、とのことだ。
高温化によって冷たい物の売れ行きが爆発的に伸びるなど、フランスの市場にも変化が起きつつある。いずれにしてもエコフレンドリーを念頭に置きながら、パリの新対策に従っていきたい。(内)

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