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パリ最新情報「フランス各地で「アンチ・衛生パスポート」なるデモが勃発!」 Posted on 2021/07/17 Design Stories  

通称トリコロールと呼ばれる3色のフランス国旗は、「自由」「平等」「友愛」を表している。その国旗がフランス中で掲げられた7月14日のフランス革命記念日、シャンゼリゼ大通りでは恒例の軍事パレードが2年ぶりに行われた。例年多くの見物客で賑わうパレードだが、今年は衛生パスポート(コロナ陰性証明書もしくは、ワクチン接種証明)の提示を義務として観客を入れ、証明のない人は通りに近づくことすら許されなかった。

パリ最新情報「フランス各地で「アンチ・衛生パスポート」なるデモが勃発!」

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国の祝日であるフランス革命記念日は、国全体がお祝いムード一色に染まる特別な日なのだが、今年はいつもと様子が違う。というのも、同日に「アンチ・衛生パスポート」なるデモがフランス各地で勃発したのである。人々は「自由」の名のもとに、マクロン大統領の強硬策に反対する声を上げた。

事の発端は12日に行われたマクロン大統領の発表にさかのぼる。感染力が強いデルタ株への懸念を示すフランス政府は、8月からカフェやレストラン、飛行機などの利用に際し、衛生パスポートの提示を義務化するなどさまざまな措置を発表。ワクチンの未接種者への圧力を強め、今すぐに行動する必要性を訴えた。

翌13日に発表された調査会社ELABEの結果によると、マクロン大統領が発表した医療関係者へのワクチン義務化には国民の75%が賛成。一般市民への措置も61%が「良い決定」と回答しているという。

問題は反対派の意見である。マジョリティの裏側に属する人々の声は、今回かなり強いものとなった。マクロン大統領のスピーチ直後、#ジレ・ジョーンヌ(黄色いベスト)がTwitterで再びトレンド入り。やはり、黙って従う人ばかりがフランス人ではない。

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シャンゼリゼ大通りで軍事パレードが行われた7月14日、パリ東側のレピュブリック広場では約2,250人のワクチン反対派によってデモ行進が行われた。人々は衛生パスポートに反対するだけではなく、「マクロン大統領の独裁政権」に対しても声高に異を唱え、「人権の国・自由の国フランス」で起きた今回の強硬策に反発した。一部暴徒化した参加者が銀行や商店に投石するなどし、警察は鎮静化のために催涙ガスを使用する事態となった。

掲げられたプラカードには「独裁政権の液体を体に入れることはない」「私たちはモルモットではない」などと書かれ、デモ参加者は口々に「自分の体は自分で管理する」と強調。なかには大手製薬会社に敵対するプラカードもあった。

パリのデモに参加するためにフランス中央部のベリーからやってきたという30代の男性は、「子供を映画に連れて行くためだけにワクチンを接種しなければいけない。何が革命的なのか。今回のワクチン接種は、衝突実験を行っていない車を運転するようなものだ」とインタビューで語った。

この日、デモは首都パリだけではなく全国53カ所で一斉に行われ、参加者は主にトゥールーズで1,500人、リヨンで1,400人、モンペリエで1,200人、ボルドーで1,200人、アヌシーで800人、ナントで800人など、合計19,000人を超えたという。



今回のデモは一部の国民が夏季休暇中ということもあり大規模ではなかったものの、参加者の意志は強かった。反対派のなかには「体を犠牲にしてまで望まないことをしたくない」「ワクチンはまだ実験段階にある」「自分の体と生活を政府に介入されたくない」という意見が最も多く、今週末も引き続きデモの開催が予定されている。

8月からは衛生パスポートの提示がないとレストランにもカフェにも入れないので、証明を持たない人にとっては自由な活動が制限されてしまう。今回のデモ参加者には「この強硬策が終わるまで絶対にレストランに行かない」という反対派もいたほどだ。

さらに今後、衛生パスポートの管理義務を果たさない運営者は、最高45,000ユーロの罰金もしくは1年の懲役を科せられる可能性がある。フランス政府は、こうした内容の法律の可決を目指しているという。

「美食の国」の飲食店は昨年からコロナ対策に振り回されてきたが、レストランやカフェはさらに制約だらけの窮屈な場を強いられる。カフェ経営者で今回のデモに参加した男性は「私たちは客の何もかも見張る警察のようになってしまった」と落胆した表情を見せた。確かに、飲食店や文化施設が通常業務の他に「人々にルールを守らせる」役割を果たさなければいけないことを考えると、スタッフも確保しなくてはならないし、大変な重荷となるだろう。

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しかしそれでもマクロン大統領は、今回の衛生パスポート導入策はロックダウン回避のために必要不可欠だとしている。すべての国民に対してのワクチン接種を義務化したわけではないが、外堀からじわじわと攻め、国民の夏季休暇を人質に取った形となった。ワクチン反対派だけでなく、施設の運営者たちも憤りの表情を隠せない。フランス国民の大多数がワクチン接種を好意的に受け止めてはいるものの、「自由」を巡る反対派の闘いは今後しばらく続きそうだ。(大)

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