パリ郊外には、自然とアートが呼応するような、魅力的な場所がいくつか存在している。パリとヴェルサイユのちょうど中間に位置する「Hanger Y（アンガール・イグレック）」も、その一つだ。森の中にある大きな公園で、アートセンター兼カルチャーパークとして、2023年にリニューアルオープンしている。
 

 
この場所にはかつて、飛行船の格納庫があったという。建設されたのは、今から一世紀以上も前の1879年。パリ南西に位置する街、ムードン（Meudon）には、当時のフランス海軍の技術研究拠点があったのだ。
 

※かつての格納庫が生まれ変わってアートセンターに

 
およそ10ヘクタールという広大な敷地に足を踏み入れると、Hanger Yの大きさに感動せずにはいられない。視界にまず入ってくるのは、巨大な旧格納庫。現在ではアートセンターとして機能していて、年に２回ほど、大規模な企画展が開かれているそうだ。
 

 
旧格納庫を抜けると、大型の立体アート作品が点在する、緑ゆたかな広場と湖が目のまえに広がる。周囲をぐるりと森に囲まれているせいか、空気は驚くほど澄んでいて、鳥たちのさえずりがパリ市内よりも力強く響く。“文化施設”と聞いて意気込んではいたが、素晴らしい自然を前に、すぐにリラックスすることができた。
 

※ベンチもアーティスティックに

 
公園は、17世紀の庭園をリデザインしたものだという。彫刻やオブジェがさりげなく配置されていて、散歩の途中でもふと立ち止まりたくなる。自然との一体感もまた格別で、一時間も経つと「そこに元々あった」という感覚を抱いてしまうほどだった。
 

※現代アートのインスタレーション作品が数多く

 
現代アートは「都会」がよく似合うと思っていたが、Hanger Yを訪れた後はそれがすっかり覆される。子ども連れの家族や、読書をする人、デートや日焼けを楽しむ人。みなが思い思いに過ごしていて、ピクニックにもぴったりな場所だった。
 

 
インスタレーション作品は、そうした空間に点在している。自然と目に入ってきて、構えずに、気づけば作品の前で立ち止まっている。その距離の近さに、アートが本当に「身近にあった」と実感した。ファミリーも若者もそれぞれのペースで楽しんでいて、Hangar Yが地域に根ざした文化拠点として、しっかり根付いていることが伝わってくる。
 

※子ども向け遊具も充実

※施設内には約300席を備えたレストランも

 
さらに、夏になると、湖のほとりにギンゲット（昔ながらの野外ダンスホールのような場所）が設けられるそうだ。彫刻やオブジェだけでなく、音と光に包まれたにぎやかなイベントが開催されるのもHangar Yの特徴。その多くが「体験型」として構成されているためか、芸術と人との距離も近い。パリ中心部のミュゼとは異なる、もう一つのアートの在り方がここにある。
 

 
そんなHangar Yは、平日であれば入場無料（土日祝日は３ユーロ）。リニューアルオープンまで40年近くも放置されていたとは思えないほど、今のHangar Yは見どころにあふれている。自然とアートを一度に楽しめる、パリ郊外おすすめのスポットだ。（オ）

【Hangar Y】

住所：9 Avenue de Trivaux, 92190 Meudon, France
公式サイト：https://hangar-y.com/　
入場料：パークのみ平日無料、土日祝日は３ユーロ。エクスポジションは別途有料