パリ３区、ファッショナブルなマレ地区にある「MAIF Social Club（マイフ・ソーシャル・クラブ）」は、フランスの保険会社MAIFが運営するユニークなアートセンターだ。
 

 
MAIF Social Clubは、入場無料でありながらハイクオリティな展示が楽しめる場所として、パリのファミリー層にも人気が高い。
というのは、乳幼児向け、親子向け、語りや音楽を交えた特別ガイドツアーがたくさん用意されているため。予約も不要という大変オープンな場所なので、土曜日にはベビーカーを押しながら展覧会を訪れる、家族連れのパリジャンたちを多く見かける。
 

※MAIF Social Clubの入り口。アパルトマンが並ぶ通りの一角にある

 
さらにMAIF Social Clubでは一年に２度ほど、特別展覧会も開かれている。その多くは“現代アート”に関する内容だ。今期（2025年２月８日〜７月26日）は『Chaosmos（カオスモス）』という企画展で、12人の現代アーティストたちが、宇宙と人間の関係を再構築したインスタレーションになっている。
 

 
今回の展覧会は、「宇宙における人間の存在とは？」という一見すると哲学的で抽象的なテーマを扱っている。しかし、実際の会場には、驚くほど多くの子どもたちと家族連れの姿が見られた。こうして文化が「日常化」しているのも、やはりフランス・パリならではだと思う。
 

※コンゴのアーティストによる作品『天の浮浪者』

 
作品を担当したのは、南アフリカ、ベルギー、カナダ、スペイン、フランス、日本といった世界各国出身・12人の現代アーティストたち。
中でも印象的だったのは、コンゴのアーティストによる『天の浮浪者』という作品。その素材は、西洋から流れてきた電子ゴミを、コンゴの市場で拾い集めたものだという。
 

 
一見すると奇抜なビジュアルだが、そこに込められたメッセージは切実だ。宇宙旅行が「地球の問題からの逃避」として語られる今、作品はむしろ、もっと足元を見つめるようにと促してくる。
 

※フランスのアーティスト、タビタ・レザイールによる刺繍作品『Mère Trinité（三位一体の母）』

※南アフリカのアーティスト、ポーキー・ヘファーによる作品『Maple Seed（メープルの種）』

 
このように、自然・宇宙・人間をつなぐスピリチュアルで哲学的な視点から、「どう生きるか」「どう世界と関わるか」を私たちに問いかけるのが、今回の企画展の本質だった。
MAIF Social Clubでは、そんな重みあるテーマをも扱っている。にもかかわらずファミリー層が多いのは、この場所に緊張感がまったく漂っていないからだろう。
併設されている読書スペース、ギフトショップ、カフェの雰囲気も、かなり自由でやわらかい。口コミなどで人気が広まり、地域の人々に親しまれているアートセンターだというのがよく分かる。
 

※ギフトショップも併設

 
MAIF Social Clubは、民間の企業が社会貢献として運営しているところが何より興味深い。近隣には人気のカフェやアパレルショップも点在しているので、マレ散策の一アイデアとしてもぴったりだ。

著名な美術館がひしめき合うパリだが、それに負けないほど多いのが、こうした個性的で草の根的なアートスペース。彼らは陰ながら、パリの文化的な豊かさを支えている。（大）
 

 
【MAIF Social Club（マイフ・ソーシャル・クラブ）】

住所：37 Rue de Turenne, 75003 Paris, France
アクセス：メトロ８号線「Chemin Vert」駅から徒歩約３分／メトロ１号線「Saint-Paul」駅から徒歩約７分
営業時間：火曜〜土曜 10:00〜19:00
休館日：日曜・月曜・祝日
入場料：無料（展示・アクティビティともに）
公式サイト：https://www.maifsocialclub.fr/