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パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」 Posted on 2025/08/23 Design Stories  

 
大型美術館から小さな邸宅美術館まで、さまざまなアートスポットが存在するパリ。しかし本日は、そのどれとも趣が異なる場所をご紹介したい。「24時間入場可能」「誰もが無料で楽しめる」「地元の人々の憩いの場」という三拍子がそろった、ちょっとユニークな“彫刻”美術館だ。
 

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」



 
場所はパリ5区、セーヌ川沿い。パリ植物園のすぐ近くで、シュリー橋とオステルリッツ橋のあいだに広がる、その名も「野外彫刻美術館(Musée de la sculpture en plein air)」という。ただ美術館といっても建物はなく、パリ市が公共スペースとして整備した「屋外展示」になっている。
アクセスも難しくはなく、活気ある5区中心部から歩いて約15分ほど。夏の猛暑日でなければ、セーヌ川を眺めながら散歩しながら、のんびり向かうのが楽しい。
 

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」

※パリ中心部から向かうとまずは広場に辿り着く(ティノ・ロッシ広場)

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」



 
この場所にはゲートも柵もないため、彫刻作品が突如目の前に現れる。花壇のなかに彫刻があったりと、景観にすっかり溶け込んでいる印象だ。
とはいえ、作品の数は20世紀後半のものを中心に、およそ30点。約2ヘクタールの敷地内に、600メートルにわたって点在している。※彫刻家はアルキペンコ(Alexander Archipenko/アメリカ)、ジャン・アルプ(Jean Arp/フランス)、セザール・バルダッチーニ(César Baldaccini/フランス)など。
 

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」

※フランスの彫刻家エティエンヌ・マルタンの作品『Demeure 1』

 
実はもともとセーヌ川の左岸には、自動車用の高速道路を通す計画があったという。ところが市民生活への影響が懸念され、70年代後半にその計画が中止になった。
こうしてぽっかり空いた河岸のスペースを、当時のパリ市は「市民に開かれた場所」として活用しようと考えたのだ。
 

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」

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パリ市は、空き地を“自然と向き合いながら散策できる緑地”に整備した。同時に、現代彫刻を展示する「野外美術館」を1980年にオープン。つまり、車のために使われるはずだった川辺が、人々の憩いと彫刻鑑賞の場へと生まれ変わったわけだ。
セーヌの風景を守りつつ、入場無料のアート空間にしたという点においては、パリらしい都市計画だったと思う。

2025年現在ではセーヌ河岸から車の姿がすっかり消えたが、こうしたパリ市の徹底した美観へのこだわりにはいつも感心させられる。そして無料で楽しめるこの彫刻美術館も、今年で45周年を迎えるのだった。
 

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」



 
自分が訪れた際は、ジョギングをする人、社交ダンスを楽しむ人、芝生でピクニックをする人たちで、広場が大変に賑わっていた。しかし、地元の人々は彫刻に特別な関心を示す様子がない。それだけこの空間が、長いあいだ日常の一部として存在してきたのだろう。
作品を眺めていると、清掃を担当している人から「(彫刻と一緒に)写真を撮りましょうか?」と声をかけていただくこともあった。そんな気さくでフレンドリーな人たちのおかげで、この場所がより平和で心に残るアートスポットに思えた。
 

パリ・アート情報「セーヌ川のあおぞら彫刻美術館。パリ中心部で“無料”の芸術散歩を」

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セーヌ川の野外彫刻美術館は、このように観光スポットとして誇張された感が少なく、日常の延長として楽しめる。彫刻はもちろんだが、セーヌ川の風景や植栽の美しさ、そして地元の人々の開放的な空気を一緒に味わえるのも魅力だろう。
機会があれば、ぜひパリの日常アートに触れてみてほしい。著名な美術館だけではない、等身大のアートが至るところにある。(ち)

野外彫刻美術館(Musée de la Sculpture en Plein Air)

住所:11 Bis Quai Saint-Bernard, 75005 Paris
定休日なし、24時間営業
入場料:無料
 

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