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パリ・アート情報「パリ市庁舎もアートギャラリーに。未来を描く環境アート展、開催中」 Posted on 2025/09/07 Design Stories
パリのど真ん中にそびえる、パリ市庁舎(Hôtel de Ville)。地下鉄の駅名にもなっているこの場所を、観光途中に目にした方も多いと思う。立派な建物なので「お役所」のイメージが強いのだが、実はここは時折、市民と旅行者に向けたアートの場に様変わりすることがある。
※現在のパリ市庁舎
2025年6月21日〜12月13日のあいだで開かれているのは、『De Paris à Belém(気候変動への10年)』というエクスポジション。2015年にパリで採択された「パリ協定」から10年をふり返り、これからの地球の未来を考える内容を、写真や絵画で展示している。
※入場はパリ市庁舎の裏手から
※一階には広大な展示室がある
そんな館内では、世界の都市が行っている環境対策の紹介や、人と自然との関わりを切り取った写真作品が数多く並んでいた。
環境問題というと、どうしてもネガティブな側面ばかりに目が行ってしまう。しかしここでは、“未来を少しでも良くしよう”とする、世界中の取り組みに出会うことができる。
今まで知ることのなかった政策に触れられて、「こんなことまでやっているんだ」と驚かされる場面もあり、新しい学びが本当に多かった。
※東京のパネルも発見。「東京都が2035年までに温室効果ガスを60%削減する目標」などが紹介されていた
その他にも、オブジェ、絵画、触って体験できるインタラクティブな展示など、作品はジャンルを越えてさまざまなものがあった(しかし内容が少し難しいので、お子様向けではないかもしれない)。
とくに目を奪われたのは、アメリカのアーティストクリス・ジョーダンによる写真作品。これは、太平洋から出たプラスチックごみ合計250万個を使って、葛飾北斎の『神奈川沖波裏』を引用したかたちで制作されたのだそうだ。
※『Gyre(ジャイア)』シアトル出身のアーティスト、クリス・ジョーダンの作品
※よく見るとプラスチックごみが切り絵のように散らばっている
こうしてパリ市庁舎のエクスポジションでは、観る人に直接語りかけてくるような作品が並んでいた。
世界各国、市役所といえば行政の舞台だが、パリではそれが「アートと出会う場」にもなる。今回の展示では、芸術の力で環境への意識を高めようとする仕掛けと、今のパリを肌で感じられるリアリティ、その両方がうまく同居していたように思う。
※人類学、経済学、科学など、多方面から環境問題に光を当てた思想家たちを、現代風のイラストで紹介
たしかに現在のパリでは、あちこちで植樹や緑化作業がすすんでいる。車ではなく自転車で街を走り抜ける人々の姿も、すっかり日常の風景になった。
※展示会場から見えるパリ市のレンタサイクルが象徴的
事実、パリ市は「呼吸するパリ(Paris Respire)」をキャッチフレーズに、環境対策をすすめてきた街だ。以前は殺風景だったパリ市庁舎前の広場にも、新しく「緑の森」が姿を現している。
2024年のパリ五輪では、競技の舞台にもなった市庁舎前。もしこの場所を通ることがあれば、オリンピック後の変貌ぶりにもぜひ目を向けてほしい。
※2024年10月のパリ市庁舎前
※150本の木、20,000株を超える植物を植え、市庁舎前に「都市の森」を創出した
そして現在、市庁舎前の外壁には、アメリカのアーティスト、シェパード・フェアリーが手がけた巨大な作品が掲げられている。歴史を背負ったパリ市庁舎が、こうしてアートギャラリーの顔になることもあるのだ。
重複してしまうが、「気候変動」と聞くと、悲観的なイメージを思い浮かべてしまう。しかし今回のエクスポジションでは、アートがその重さを和らげていた。文字や映像とはまた違う、芸術作品のパワーをあらためて感じた一日だった。(大)
【De Paris à Belém(気候変動への10年)】
住所:Place de l’Hôtel de Ville Paris(メトロ1・11号線、Hôtel de Ville 駅)
公式ホームぺージ:https://www.paris.fr/evenements/de-paris-a-belem-10-ans-d-actions-mondiales-pour-le-climat-l-exposition-qui-celebre-les-10-ans-de-la-cop21-85925
開館時間:10時~19時、日曜・祝日は休業
入場料:無料、要予約(公式ホームぺージからオンライン予約)