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パリ・アート情報「パリの『プティ・パレ』で、名画と建物を楽しむ」 Posted on 2025/09/09 Design Stories
パリの美術館には展示作品だけではない、大きな魅力がある。建物の壮大さ、空間の美しさ、落ち着いた雰囲気……。そんな中でも、度肝を抜かれる美術館といえばここ、「プティ・パレ(Petit Palais)」だろう。
常設展であれば入場無料で、予約も必要ないプティ・パレ。だからこそ、肩ひじ張らずに足を運んでみたくなる。
プティ・パレは、シャンゼリゼ大通りのすぐ側にある。向かいには同じくアートスポットのグラン・パレがあって、これらは1900年のパリ万博に合わせて建設されたという。
その外観も、内観も、絢爛豪華。大理石の柱に、太陽光がたっぷり降り注ぐガラス窓など、壮大でありながらも開放感があって、入ってすぐに「心地よい」と感じてしまう。
展示内容は幅広く、なんと古代から近代まで。とはいえやはり多いのは、19世紀後半〜20世紀初頭にかけての作品。時代を一気に旅するようなラインナップながら、モネやセザンヌの絵画、ロダンやブールデルの彫刻といった巨匠たちの作品にも出会うことができる。
※『サラ・ベルナールの肖像』1876年、ジョルジュ・クレラン作
たとえば、展示室に入ってすぐにまみえる『サラ・ベルナールの肖像』は、“アール・ヌーヴォー”の先駆けと言われている一枚だ。サラ・ベルナールはベル・エポックを代表するパリの大女優で、ミュシャなど多くの芸術家たちのインスピレーション源になっていた。
そして彼女の姿はここプティ・パレだけでなく、ヴィクトル・ユゴー記念館やカルナヴァレ美術館でも見ることができる。まさに、「時代のミューズ」と呼ぶにふさわしい存在だったのだろう。館をまたいであの時代の気配に出会えるのも、パリならではの楽しみだ。
※『レ・アル』1895年、レオン・ルルミット作
19世紀後半のパリ市庁舎前を描いた『レ・アル』もまた、見るべき作品の一つと言われている。
市庁舎前は、現在も「レ・アル」と呼ばれているのだが、当時は食料市場、つまりかつての「パリの台所」があった。※この絵の修復作業が、現「パリの台所」、ランジス市場の支援を受けて行われたというのも興味深い。
プティ・パレでは、そんな約150年前のパリの風景を、芸術作品を通して生き生きと再発見することができる。
※「どこかで見たことのある」シャンデリアは、地下鉄パレ・ロワイヤル駅のものと同じアーティスト、ジャン=ミシェル・オトニエルの作品
さらに奥へ進むと、印象派の絵画が並ぶサロンへ。ここではモネ、セザンヌ、ブーダン、シスレーといった画家たちの名作が迎えてくれる。
これら印象派作品は、大型美術館ほどのボリュームではないかもしれない。しかしプティ・パレでは“鑑賞者を疲れさせない”心地よい空間がいつまでも続いていて、一つ一つの作品と向き合える贅沢さが心に残った。
※『Soleil couchant sur la Seine à Lavacourt, effet d’hiver(冬の効果、ラヴァクールのセーヌ川の夕陽』1880年、クロード・モネ作
さらには、彫刻家のロダンや、ブールデルの小作品も展示されている。気をつけていないと通り過ぎてしまいそうなほど控えめなサイズではあるが、とくにロダンの『男性のトルソ』は1887年頃の作品で、のちの1900年頃に制作される『歩く人』へとつながっていく出発点のような彫刻だという。
※『男性のトルソ』1887年頃、オーギュスト・ロダン作
※『ペネロペ』1909年、アントワーヌ・ブールデル作
ロダンもブールデルも、それぞれパリに専門の美術館を構える歴史的なアーティスト。プティ・パレでは、そうした巨匠たちの隠れた名作にもめぐり会うことができる。
時間に余裕があれば、巨匠たちの美術館とぜひセットで訪れてみたい。じっくり観てまわれば数時間ほど、中庭にはカフェも併設されているので、滞在中はとても豊かな時間を過ごせるはず。
このように、予想をはるかに超える充実感を与えてくれるプティ・パレ。展示されている作品はもちろん、建物そのものの美しさも格別だ。作品を観る楽しみと、空間に身を置く心地よさ。その両方を味わえるのが、プティ・パレのいちばんの魅力だと感じる。(こ)
【プティ・パレ(Petit Palais)】
所在地:Avenue Winston Churchill, 75008 Paris
公式HP:https://www.petitpalais.paris.fr/
最寄駅:メトロ1号線・13号線「Champs-Élysées – Clemenceau(シャンゼリゼ=クレマンソー)」駅下車すぐ
開館時間:10:00〜18:00(月曜休館)
入館料:常設展は無料、企画展は有料