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パリ・アート情報「画家モローの理想と出会う場所、パリのギュスターヴ・モロー美術館」 Posted on 2025/09/14 Design Stories
パリで一度は行きたい美術館、「ギュスターヴ・モロー美術館」。9区にあるこの場所は、19世紀の画家、ギュスターヴ・モローの自宅&アトリエだった。少しマニアックではあるが、個人の美術館ならではの、濃く深い時間を過ごすことができる。
建物自体は、とても控えめなギュスターヴ・モロー美術館。MAPを頼りに歩いていなければ、うっかり通り過ぎてしまうかもしれない。
とはいえモロー(1826-1898)は、19世紀フランスの象徴主義を代表する画家。印象派が“光”を追い求めていたのに対して、モローは神話・聖書の、「夢のなかにいるような」絵を描き続けた。
※1階(フランス式)に居室の展示があり、2・3階がアトリエ空間
※“壁一面”の展示方法は、19世紀頃によく見られたスタイルだそう
そのためこちらは美術館というよりも、モローの世界観にそっとお邪魔するような空間が続いている。
彼自身は幼いころから身体が弱く、どちらかといえば内向的な性格だったという。華やかなパリ・エリート画家たちのサークルにはなじめず、ひとり籠るように理想の絵を追い求めた。
※ギュスターヴ・モローの自画像
そんなモローの心を人間社会より強く惹きつけたのは、ギリシャ神話の世界だったそうだ。アトリエには油彩約250点、水彩・デッサン7,000点以上が所蔵されているのだが、中には未完成のまま残されたものも多いという。
※『ユピテルとセメレ』1895年に完成した晩年の大作
※制作の緻密さが伝わる
ところが彼にとって大切だったのは、「完成」よりも「探求」。だからこそ、この美術館で目にする未完成作品の多さも、決して欠点ではないと感じる。
モローの内側に広がっていた宇宙が、どれほど大きなものだったか。作品を眺めていると、こちらの想像もどんどん広がっていく。
※無数のデッサン・習作が収められている展示パネル
2・3階のアトリエ空間では、そうした習作が収められている“展示パネル”もあった。キッチンの戸棚のように開けることができて、目の前には丸イスの用意もある。じっくりと、モローの素晴らしいデッサン・習作をここで味わってみたい。
そして絵と同じように素晴らしいのは、サロン中央にある「螺旋階段」。思わずカメラを向けてしまうほどの美しさで、この階段がなければ、モロー美術館は今のモロー美術館でなかったかもしれない。
モローは、亡くなる前からこの家を美術館として残すことを決めていたという。遺言には、作品や調度品を当時のままの配置で保つようにと記されていたそうだ。
きっとこの階段も、彼にとっては自慢の一つだったのだと思う。神秘的な絵とモローの残り香、その二つを同時に感じられるのが、この美術館の素敵なところだ。
※もう一つの大作『人間の生(La Vie de l’humanité)』
孤高の天才に見えるモローも、実は晩年は、エコール・デ・ボザール(パリの美術学校)の教授として、マティスやルオーといった巨匠たちを指導していた。フランスでは、彼が弟子たちに慕われていたことも、よく伝わっている。
揺るぎない世界観を持つ人ながら、普段の行動は控えめ。パリの華やかな世界には興味を示さず、でも教えるときはやさしく熱心……。そんなギャップが、教え子たちから尊敬される理由だったのだろう。モローは当時の芸術界では異端児だったが、20世紀の芸術につながる大切な橋をかけた人でもあった。
美しい内装と、大作の数々に出会えるギュスターヴ・モロー美術館。何度おとずれても何度見ても飽きることのない、不思議な場所だ。世界中に熱心なファンが多いのも、なるほどと納得できる。(オ)
【ギュスターヴ・モロー美術館(Musée Gustave Moreau)】
住所:14 Rue de la Rochefoucauld, 75009 Paris
最寄り駅:地下鉄12号線「Trinité – d’Estienne d’Orves」駅から徒歩約5分
開館時間:10:00~18:00(最終入場17:30)
休館日:火曜日、1月1日、5月1日、12月25日
入館料:大人8€