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パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」 Posted on 2025/10/20 Design Stories  

 
パリという街はどのようにしてパリになったのだろう? その問いを、あらゆる角度から答えてくれる場所がある。マレ地区にある、カルナヴァレ美術館(Musée Carnavalet)だ。
 

パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」



 
中世の館を改築し、19世紀半ばに美術館となったこの場所。パリ改造計画によって、古いパリが破壊されようとしていたときに、のちの世界にも街の歴史を伝えていこう、ということで残された。
パリの美術館の中でもかなり古い部類なのだが、入場料はいつでも誰でも無料(市立美術館のため)。マレ散歩のついででも良いし、数時間ほどじっくり腰を据えるのも良い。
 

パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」

※パリの歴史を伝える美術館

 
カルナヴァレ美術館が面白いのは、かつてパリに掲げられていた看板のコレクションからスタートするところ。昔のパリでは、看板は石や木、鉄などさまざまな素材で作られていたという。中には商売の種類をはっきり示すものもあれば、なぞなぞのような看板もあったらしい。
メガネ屋ならメガネ、仕立て屋ならハサミ、ホテルなら鍵……。というように、派手でユニークであれば勝ち、という世界だったそうだ。現代でもその名残はあって、私たちの目を引くお洒落なものが多い。
 

パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」

 
そこから先は、昔のパリへと一気にタイムトラベルする。展示ルートは、なんと全長1.5キロ以上。時代順にストーリーをたどるように構成されていて、先史時代の出土品から、昔のパリのパノラマ、失われた建物の模型、フランス革命、そしてパリに暮らした著名人たちの肖像まで、とにかく「この都市がどうやっていまの姿になったのか」を体感しながら歩ける。
革命家やマリー・アントワネットに関する展示などはかなり豊富で、中にはミュシャがデザインしたジョルジュ・フーケ宝飾店の復元展示もあった。
 



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※当時の貴族のサロン(応接間)

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一方でルイ14〜16世時代の貴族のサロンには、ヴェルサイユ宮殿にもひけをとらない魅力がある。あざやかな壁紙、天井画、ボワズリー(壁の下部にある木製パネル)は、現代ではあまり見られない豊かな色づかい。フランスの人々が幾世紀にもわたって育んできた、手仕事と美意識にじっくり触れることができた。
 

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※ボワズリー。室内装飾の格を示す役割があった

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※ときおり窓から垣間見える中庭も美しい



 
また、カルナヴァレ美術館では今、『Visages parisiens(パリジャンの顔)』という企画展も開催されている。
これは1926年から現代まで、パリの人々がどのように自らを見つめ、また他者の目にどう映ってきたのかを、“顔”というテーマでたどるエクスポジション。実際にとても興味深い内容で、写真、映像、絵画やイラストを使ってありのままのパリを表現していた。絵画の展示が多いので、アート好きの方にもきっと満足できる内容だと思う。
 

パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」

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※「晴れ間が7分間!」という天気予報に、すぐさまカフェのテラスへ駆け出すパリジャンたちを描いたユーモラスな作品



 
素晴らしい美術館が数多く存在するパリだが、それでも、この街の本質をもっとも雄弁に語るのは、カルナヴァレ美術館ではないだろうか。
華やかさと同時に、影の部分までも丁寧に記録してきた街の記憶。おそらく2025年に暮らす私たちのことも、同じように残されていくのかもしれない。
 

パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」

 
このようにカルナヴァレ美術館では、観光のついでに「昔のパリ」と「今のパリ」を一度にのぞき見ることができる。無料とは信じがたい充実ぶりなので、パリを愛する人であればぜひ、一度足を運んでみてほしい。(大)
 

パリ・アート情報「マレ地区に眠るパリの記憶。カルナヴァレ美術館を訪ねて」

 
【カルナヴァレ美術館(Musée Carnavalet)】

住所:23, rue de Sévigné, 75003 Paris
開館時間:火曜〜日曜、10:00~18:00
入場料:常設展は無料、予約不要
公式ホームページ:https://www.carnavalet.paris.fr/
 

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