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パリ・アート情報「ルーブル美術館で史上最大級の強盗事件、王室コレクションが標的に」 Posted on 2025/10/21 Design Stories  

 
2025年10月19日(日)の午前、パリのルーヴル美術館で大規模な強盗事件が発生した。狙われたのは、「ギャラリー・ダポロン(Galerie d’Apollon)※」に展示されていた歴史的価値の高い宝石類9点(うち2点は発見済)。いずれもナポレオンやその皇后たちにまつわる、フランス帝政期の王室コレクションだ。
※ギャラリー・ダポロン…主にフランス王室の宝飾コレクションが収められている展示室。サモトラケのニケからもほど近い。
 

パリ・アート情報「ルーブル美術館で史上最大級の強盗事件、王室コレクションが標的に」



 
世界最大級の美術館で堂々と行われたこの盗難劇は、フランス国内に大きな衝撃を与えると同時に、ルーヴルのセキュリティ体制をめぐる議論を再び呼び起こしている。
というのも、犯行グループの手口があまりにも大胆だったからだ。事件が発生したのは、美術館が開館してわずか30分後の午前9時半ごろ。観光客が増えはじめる時間帯、しかもセーヌ川沿いにある道から、彼らは堂々と犯行に及んだのだ。

フランスの報道によれば、犯行グループは4人組。いずれも建設作業員を装い、蛍光ベストなどの作業着を身に着けていたという。そして彼らは、トラックに積んだ昇降装置を使って美術館に接近し、ガラス窓を切断した。展示ケースを破壊して宝飾品を奪い去ったあとは、乗っていたトラックに火をつけようとしたが失敗し、2台のスクーターで現場を離れている。犯行全体に要した時間は、わずか7分間だった。
ルーブル美術館側の報告では、窓と展示ケースには警報装置が設置されており、侵入時には警報が作動していたという。そして犯行は、美術館のスタッフを脅した上で行われたとされている。
 



パリ・アート情報「ルーブル美術館で史上最大級の強盗事件、王室コレクションが標的に」

※ウジェニー皇后の王冠

 
計り知れない価値を持つとされる今回の盗難品。被害にあったのはティアラ、イヤリング、ネックレスなど合計9点にのぼり、その中にはウジェニー皇后(ナポレオン3世妃)の王冠も含まれていた。ただ、この王冠は逃走の最中に落としたとされ、のちに美術館の近くで破損した状態で発見されている。もう1点は強盗が行われた展示室内で見つかった。
なおフランスでは、被害にあった残り7点のリストも公表されている。いずれも歴史的・芸術的に価値の高い、いわば国宝級の宝飾品ばかりだ。
 



パリ・アート情報「ルーブル美術館で史上最大級の強盗事件、王室コレクションが標的に」

※盗品の一つ、マリー=アメリ女王のティアラ(サファイア)

 
ルーブル美術館は事件当日の19日、翌日20日を臨時休館とした。一方で、パリ検察庁はすでに本格的な捜査に着手している。とくに今回は、フランス国内でもっとも高い解決率を誇る専門捜査期間「バンディティズム取締部隊(BRB)」も動員され、この事件がいかに異例で緊迫したものであるかを物語っている。
エマニュエル・マクロン大統領も事件に対し、「私たちが大切にする遺産への侵害だ」と強く非難し、盗品回収と犯人逮捕に全力を尽くすと表明した。

とはいえ、ルーブル美術館のセキュリティ体制を疑問視する声は以前から多かった。フランス会計検査院(Cour des comptes)の事前報告書では、ルーブル美術館における重大なセキュリティ上の欠陥も明らかにされている。さらに今年6月には、ルーヴル美術館のスタッフが「人手不足」の問題に抗議するため、ストライキが行われたこともあった。

フランスでは近年、美術館・博物館での強盗事件が増加傾向にある。先月9月には、パリ自然史博物館で60万ユーロ相当の金塊が盗まれたばかりだ。そのため事件翌日の20日には、フランス政府から全国の文化施設に対し、セキュリティ体制の見直しと警備の強化が指示された。
しかし20日午後の時点でも犯人は逮捕されておらず、フランス国内では今、美術館の防犯体制・人手不足をめぐる議論が白熱している。(こ)

※ルーヴル美術館側は、休館中にチケットを予約していた来館者には払い戻しが行われると発表している。なお美術館の状況や再開情報については、ルーヴル美術館の公式サイトや公式Xを参照。
 

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