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パリ・アート情報「一夜限り、パリの街すべてがアートの舞台に!ニュイ・ブランシュ2025」 Posted on 2025/06/09 Design Stories
6月7日の夜、パリとその周辺地域が、一夜限りの巨大なアートステージへと姿を変えた。これは、毎年恒例のアートイベント「ニュイ・ブランシュ(Nuit Blanche)」の風景だ。パリ市主催で、絵画、映像、音楽、ダンスといったさまざまなジャンルのアートが一晩中、パリの街を彩る。
誰でも無料で楽しめるこのイベントでは、夜のパリを歩きながら思いがけない場所でアートに出会うという、まさに非日常の体験が待っている。
※パリ中心部、「イノサンの泉」で行われた音と光のインスタレーション
ニュイ・ブランシュとは、フランス語で“白夜”を意味するが、同時に“眠らない夜”という意味も込められている。イベントの始まりは2002年。当時のパリ市長、ベルトラン・ドゥラノエの発案によりスタートした。
「教会や橋、庭園、公共広場などを舞台にして、人々が気軽に芸術と触れあえる機会を作りたい」
ニュイ・ブランシュは、そんな市長の思いから生まれたプロジェクトだったのだ。この日は、パリの著名な美術館もまた、特別なイベントを用意して訪れる人々を迎えている。
※現代アート美術館としてすっかりパリに定着した、「ブルス・ドゥ・コメルス – ピノー・コレクション」にもたくさんの人々が集まった
※パリ中心部のショッピングセンターで開催されたプチ野外フェス
毎年、異なるテーマと芸術監督が選ばれるニュイ・ブランシュ。今年2025年は、映画監督ヴァレリー・ドンゼッリの監修だったため、パリとその周辺地域が“映画的な視点”で掘り下げられることに。セーヌ川沿いのトンネルが野外映画館に変身したり、あのカタコンベで史上初のサウンドツアーが行われたり……と、今年は音と映像に力を入れたインスタレーションがとくに目立っていた。
※歴史的な建物もアートの舞台に
※“今のところ、すべて順調”
印象的だったのは、パリの街でよく見かける歴史的な建物に、LEDライトの文字が突然浮かびあがっていたこと。建物の内部では、フランスの映画監督マチュー・カソヴィッツの作品『憎しみ(La Haine)』の有名なセリフ「今のところ、すべて順調」が煌々と映し出されていた。
このインスタレーションは、“都市空間を詩的な舞台に変えること”を意図していたそうだが、こうして古い建物のなかに現代的な作品が溶け込んでいるのも、やはりパリならではの光景だと思う。
※パリ1区のサン=ウスタッシュ教会では、現代アートとダンスパフォーマンスが行われ、長蛇の列ができていた
ニュイ・ブランシュはさらに、若手アーティストにとっても貴重な発表の場だ。これまでに4000人以上のアーティストが参加したそうで、彼らのエネルギッシュな創作活動に触れることができるというのも、イベントの大きな魅力になっている。
※明け方まで行われるニュイ・ブランシュのために、パリのヴェリブ(貸し自転車)が45分間だけ無料に
6月のパリでは、気候の良さも相まって、文化的イベントが数多く用意されている。ニュイ・ブランシュも名物イベントの一つに数えられるが、街とアートが一体になるその空気感が何よりも素晴らしい。その熱気を引き継ぐかのように、6月21日にはフランス最大の音楽祭「フェット・ド・ラ・ミュージック(Fête de la musique)」がやってくる。これからは音楽とともに、夏のパリがさらに賑わいを増していく。(大)