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パリ・アート情報「アニエスベーが手がける、パリの現代アート美術館『La Fab.』」 Posted on 2025/12/06 Design Stories
パリ13区。比較的新しいこの街に、ファッションブランド「agnès b.(アニエスベー)」が手がけた現代アートの美術館がある。
美術館の名前は、「La Fab.(ラ・ファブ)」。カルティエ財団やフォンダシオン・ルイ・ヴィトンと同じように、アニエスベーもまた、ブランドならではのかたちでアートの世界に寄り添っている。

La Fab.は、ブランドの創始者アニエス・トゥルブレが長年集めてきたアート作品を紹介する、新しいタイプの文化スペースだ。1980年代からギャラリーを運営してきた彼女の、「心惹かれるものを集めて、人と分かち合いたい」という思いから作られたという。※オープンは2020年。

※エントランスですでに感じるモダンアート

※本を中心としたブティックも併設
1400平方メートルもの敷地内に広がるLa Fab.では、アニエスがコレクションした5,000点以上の現代アート作品から、約300点が選ばれて展示されている。
また館内1階には、本や雑貨、写真集などを扱う小さなブティックも。彼女が大切にしてきた世界観に、そのまま触れられるような空間になっているのが何とも嬉しい。

※1階はLa Fab.が所有する作品が鑑賞できる「La collection」という空間に

※アンディ・ウォーホル『Lips, circa』

※バスキア『Autoportrait』『Sans titre』
1階の展示室を歩いていると、アンディ・ウォーホルやバスキアの作品に思いがけず出会うことができた。中にはぬいぐるみ・ビニール袋といった日常的な素材を使った、ちょっと不思議なインスタレーションも。

※アネット・メサジェ『2 clans, 2 familles』
作品との距離は、小さな美術館で味わうのと同じように、とても近い。とはいえ美術館の存在があまり知られていないのか、館内にいるのはスタッフ数人と自分ひとりのみだった(訪れた日は平日)。


それもあって、素晴らしい作品を角度を変えながら、じっくりと鑑賞することができた。内装も現代アート美術館とギャラリーのちょうど中間という雰囲気で、展示パネルや説明書きはほかの文化施設よりも控えめ。なんとなくだが、「アニエスベーが手がける広めのオフィスにお邪魔している」といった印象が残った。

※2階の展示スペース「la galerie du jour」
そして2階に続く展示スペース「la galerie du jour」では、アートギャラリーのような抜けた空間が広がる。それもそのはず、la galerie du jourは1984年にアニエスベーが最初に開いたアートギャラリーを、そのまま館内で再現したという興味深いコンセプトだった。
目的は、さまざまなジャンルのアートを“家のような場所”で気軽に紹介・販売すること。内容も定期的に入れ替わるといい、ときには家具やオブジェが並ぶこともあるそうだ。
現在では、写真をメインにした「Humanité(ヒュマニテ/人間性)」展が開催中で、写真家マーク・コーエンのモノクロ写真が、La Fab. 全体の強いアクセントになっていた。

※ブランドロゴと同じ筆記体が使われている
創始者アニエス・トゥルブレはまた、若いアーティストの支援、社会的・環境的な活動にも熱心だという。la galerie du jourではささやかながら、そうした取り組みもいくつか紹介されていた。
そんなアニエス・トゥルブレは1984年、ブランド初のブティックの向かい、パリの元肉屋のスペースにギャラリーをオープンした際、次のような言葉を残している。
「自分の好きなものを見てもらえる場所をつくりたいと思いました。ギャラリーというけれど、“物事の裏側や横顔を見せる場所”と言ってもいいかもしれません。……この場所はまだザラっとしていて、どこか昔の肉屋のような雰囲気も残っています。でも、いずれ“また戻ってきたくなる”、そんな生きた場になってほしいと願っています」

日本でも、ファッションブランドとして知られるアニエスベー。しかしLa Fab. は「アニエスベー基金」として、服ではなくアートの力をまっすぐに届けている。こうしてパリでは、ファッションとアートの繋がりが深いところも面白い。(ヤ)
【ラ・ファブ(La Fab.)】
住所: Pl. Jean-Michel Basquiat, 75013 Paris
公式サイト:https://la-fab.com/
開館時間:水曜〜土曜11時〜19時、日曜14時~19時、最終入場18:30
休館日:月曜、火曜
入場料:7ユーロ


