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パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」 Posted on 2025/12/20 Design Stories  

 
パリ滞在中、一度は訪れるかもしれない「パレ・ロワイヤル」。かつての宮殿があった場所で、現在ではその中庭を囲うように、フランスの政府機関が置かれている。
そこで私たちがまず目にするのは、ストライプ柄の円柱がいくつも並ぶ、なんとも不思議な光景だ。
 

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」



 
周囲から浮いているようで浮いていない、そして一度見たらなぜか忘れられないストライプ柄の円柱。一体どうして、どこからやってきたのだろう?
これは、フランス人アーティスト、ダニエル・ビュレンによる現代アート作品(1986年完成)で、通称「ビュレンの円柱」と呼ばれている。
 

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」

※円柱の数は260本

 
「では、なぜ縞模様?」と、真っ先に疑問を抱くのだが、実はビュレンはパレ・ロワイヤル以外でも多くのストライプ柄作品を発表してきた、著名なアーティストでもある。その名を聞いて、「知らない」と答えるフランス人は限りなくゼロに等しい。
そんな彼が60年以上にわたって使い続けているストライプ柄には、以下のような考えがあるのだという。

たとえば、設置する場所で「絵画」や「彫刻」が主役になってしまうと、まわりの建築・歴史・文脈が見えにくくなってしまう。そこで、シンプルなストライプ柄を用いて「これは何の絵だ?」ではなく、「ここはどういう場所だ?」と考えさせる。
つまり、ストライプをあえて“主役にさせない”ことで、空間そのものを浮かび上がらせる役割を担っているのだそうだ。
 

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」

※ピレネー山脈の大理石によってつくられている



 
そう言われてみると、フランスのカフェやアパルトマンの日よけシェードには、ストライプ柄が多く採用されていることを思い出す。これらのデザインはビュレンとは関係ないものの、たしかに周囲の景観をまったく損ねていない。
 

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」

※ストライプ柄のカフェの軒先

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」

※パリの日よけシェード



 
今年2025年10月24日には、そんな「ビュレンの円柱」の完成から約40年を経て、パリに新たなビュレン作品が加わった。
場所は、凱旋門から少し歩いたところにある、パリ17区のアカシア通り。住宅街に建つ建物のファサードに、おなじみの白&黒のストライプがさりげなく、しかしそれとはっきり分かる形で姿を現したのだ。
 

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」

 
2025年で87歳を迎えるダニエル・ビュレン。『ラ・ファサード・デ・アカシア』と名付けられたこの作品は、アカシア通り全体の再整備計画の一環として恒久的に設置された。建物の中には、若手の現代アーティストを支援するアートセンター兼展示スペース「Reiffers Initiatives」が入っている。
今回のストライプ柄作品は、そうして若手を支援してきたReiffers Initiativesの5年の節目に合わせ、ビュレンに制作が依頼されたものだった。
 

パリ・アート情報「パレ・ロワイヤル、“ストライプ柄”の謎。歴史的建物に新作も」

 
『ラ・ファサード・デ・アカシア』は、「若手アーティストを育てる場そのものを、街に向かって可視化する」、という意図のもとで生まれた。
このようにストライプ柄は毎回同じでも、建物ごとに異なるストーリーが立ち上がっていく。個性を主張しないシンプルなパターンながら、早くもこのカルチエの新しいトレードマークになりつつあるように感じられた。

ただ、「ビュレンの円柱」が登場した1980年代には、景観を損ねるのではないか? と激しい論争が巻き起こったという。それでも現在のパリでは、“歴史的な建物に現代アートが入り込む光景”がすっかり日常のものとなっている。
ストライプ柄などは説明がなくても目印になるし、自然と場所を記憶することができる。パリの街を歩いていると、そうした存在に何度も出会ったりする。(こ)
 

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