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パリ・アート情報「今も残るパリのミニシアター、配信の時代に映画館へ」 Posted on 2026/01/21 Design Stories
パリでたまに見かける、小さな小さな映画館。
もちろん大型の映画館も、駅前やショッピングセンターなどにたくさんある。しかし何となく気になってしまうのが、看板も入り口も宣伝も控えめな「ミニシアター(独立系映画館)」だ。

それらは、地図で調べて行かないと通り過ぎてしまうほどに素朴。小さくてちょっとした癖があって、それぞれに独自の物語を抱えている。こうしたミニシアターの前を通るたび、フランスが「映画誕生の国」だということに改めて気づく。
パリ5区、カルチェ・ラタンにある「ラ・クレフ(La Clef)」も、そんな映画館の一つ。ラ・クレフは1973年に生まれたミニシアターだが、実は2018年に一度、閉館している。家賃の高騰で、運営団体だけでは立ち行かなくなったためだ。

※パリのミニシアター「La Clef」2026年1月14日
ラ・クレフの物語が印象的なのは、ここで映画ファンたちが売却を許さなかったことにあると思う。映画を愛する人たち(観客や学生、映画人、近隣住民ら)が集まり、「ラ・クレフを自分たちで守ろう」と立ち上がったのだ。
彼らはラ・クレフにとどまり、細々と上映を続けながら2年間で10万ユーロ(約1,850万円)の募金を集めた。そして2024年にはついに、施設の所有権を取り戻した。

※改装にあたってはパリ市の支援もあった
一度は警察から立ち退きを命じられ、上映もままならなかったラ・クレフ。それが数年後には、パリ市という自治体までもが支援しているところがなんとも興味深い。「自主的に運営されるミニシアター」と、「行政の支援」が矛盾なく両立するのもフランスならではだと感じる。

※1月14日の夜、再オープン日のラ・クレフ(La Clef 公式Instagram)
そんなラ・クレフは、去る1月14日に公式に再オープンを果たした。当日夜は、パリの映画ファンで夜遅くまで賑わったという。※年会費を払えばチケットはなんと自由価格制。
また、個人会員(年5〜15ユーロ)になれば、希望に応じて自分で作品を選び、上映の準備から当日の運営までを担う「プログラマー体験」にも参加できるそうだ。

©Ville de Paris
このように、フランスでは映画を観ること、そして映画館に足を運ぶこと自体が文化の一部になっていると感じる。2020年代に入ってからはミニシアターの閉館ラッシュが続いたというが、それでも映画館を選ぶ人は多いようだ。フランスの「映画館のサブスク制度」が、それを後押ししているのだろう。
「映画館のサブスク制度」は、月額料金を支払えば何度でも映画を観られる、というもの。大手シネコンUGCでは、月額23.90ユーロで好きな映画を何本でも楽しめる。平日のみ利用できるプランや、週末限定のプランもあるので、現在ではクリスマスや定年退職のギフトとしても人気だという。

※ラ・クレフのあるカルチエ・ラタン
加えてフランスでは年に一度、「ラ・フェット・デュ・シネマ(映画祭り)」と呼ばれる期間もある。夏の数日間だけ、加盟している映画館で一律5ユーロで映画が観られるという特別なシーズンだ。
というように、フランスではミニシアターから大手シネコンまで、映画館の個性が強く光っている。現代の娯楽は映画だけに限っていないが、こうした「映画館に行く理由」が街のあちこちにあるのは、やはり嬉しいことだと感じる。(ヤ)


