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パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」 Posted on 2025/06/16 Design Stories  

 
パリから郊外電車に揺られて、ほんの30分ほど。美しく歴史ある街、サン=ジェルマン=アン=レーには、『月の光』を生んだ作曲家ドビュッシーの生家がある。
この家は長年の修復を経て、2024年末に「メゾン・ド・ドビュッシー(博物館)」として再公開された。1680年築の由緒ある建物ということで、地域の歴史的建造物にも指定されている。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※リニューアルされたドビュッシーの生家



 
サン=ジェルマン=アン=レーの中心部から歩いて数分、「パン通り」と呼ばれる商店街にあるブルーの建物が、ドビュッシーの生家だ。
館内は決して広くないものの、清潔で素朴な雰囲気につつまれている。1862年、クロード・ドビュッシーはこの家の2階で生を受けたという。
当時の両親は1階で陶器店を営んでいたが、暮らしはあまり楽ではなかったそうだ。やがて商売をたたみ、一家は幼いクロードを連れてパリへと移り住んでいる。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※生家のある「パン通り」

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※一階部分に当時の雰囲気を伝えるコーナーが設置されている

 
1階は受付と案内所、2階・3階は展示室。中庭には17世紀の木製階段が残されていて、展示室はその階段を上ったところにある。ドビュッシーは幼少期にここを離れたものの、後年には何度もサン=ジェルマン=アン=レーを訪ね、街には深い愛着を抱いていたという。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※中庭



 
『月の光』がBGMで流れる小さな展示室には、若き日のドビュッシーの写真や、家族にまつわる品々、直筆の楽譜などが並べられている。
パリに移ってからのドビュッシーは、音楽界や社交界で多くの人物と出会った。作曲家のエリック・サティ、エルネスト・ショーソン、詩人のピエール・ルイスなどだ。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※若きドビュッシーの交友関係

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※ピアノも置かれている2階の展示室。ここでミニコンサートが開かれることもあるそう



 
友情には摩擦もあったようだが、そうした複雑な人間関係が彼の音楽に影響を与えていたことは間違いないだろう。とくに『月の光』や『海』のような浮遊感ある作品には、その影が淡く差し込んでいるように思えた。
2階の展示室では、ドビュッシーがそんな人間関係に期待しながらも疲弊していた様子が、ありありと伝わってくる。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※1898年、無名だった頃のドビュッシー。芸術のパトロン、アルチュール・フォンテーヌ邸にて

 
3階に上がると、ドビュッシーが大切にしていた「芸術観」と「作業風景」が展示されていた。彼は印象派の画家たちと同じく、日本の浮世絵に大きな影響を受けていたそうだ。
そのさまざまな持ち物からは、“等身大のドビュッシー”が感じられる。これまでテキストや音源でしか知り得なかったドビュッシーが、まさに立体になった瞬間だった。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」



 
展示の後半ではさらに、43歳で授かった愛娘クロード=エマ(愛称シュシュ)との記憶も小さく紹介されている。
スキャンダラスな人生で、周囲との軋轢も多かったドビュッシー。しかし、シュシュと並ぶその姿にはやさしい父の顔があった。ドビュッシーはのちに指揮者としての道を歩みはじめ、イギリスでも高く評価されるようになる。
メゾン・ド・ドビュッシーは、そんな偉大な作曲家が55歳で病に倒れるまでの物語を紹介している。小さな博物館だが、訪れたあとに残る余韻はとてつもなく大きい。
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

※40代のドビュッシー。最後の妻エマ、娘シュシュ、愛犬とともに

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※ドビュッシーと娘シュシュ



 
フランスに数多くある芸術家たちの「生家」。著名人の人間らしい部分に触れると嬉しくなるものだが、メゾン・ド・ドビュッシーでもそうした思いをはっきりと抱くことができた。
彼の生まれた街サン=ジェルマン=アン=レーは、かつてのフランス王家ゆかりの地でもある。新たな「音楽の聖地」として、ぜひ訪れてみてほしい。(ち)
 

パリ・アート情報「フランスの名作曲家、ドビュッシーの生家へ」

 
【メゾン・ド・ドビュッシー(La maison natale de Claude Debussy)】

住所:38 rue au Pain, 78100 Saint‑Germain‑en‑Laye
開館時間:水曜~日曜 14:00〜18:00(※月曜・火曜・祝日は休館)
入場料:大人6 ユーロ、12歳未満は無料
 

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