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パリ・アート情報「パリの地下鉄ホームがアート作品に。日常の移動に美を」 Posted on 2026/03/12 Design Stories
パリの地下鉄、ホームにて。突然アートに出会うことがある。なんでもない日常の移動時間が、少しだけ楽しくなる瞬間だ。

こうした体験がパリでできる理由は、フランス文化省とRATP(パリ交通公団)が、地下鉄の空間を「文化に触れられる場所」として再解釈する取り組みをすすめてきたため。すべての駅、とまではいかないが、中には「さすがパリ」と声に出したくなる素敵なデザインもある。今回は、とくに印象的だった4つの駅をぜひご紹介したい。

※Cluny-La Sorbonne(クリュニー=ラ・ソルボンヌ駅)
まずはパリ5区、カルチェ・ラタンの中心にある Cluny-La Sorbonne(クリュニー=ラ・ソルボンヌ駅)から。
パリのカルチェ・ラタンといえば、古くから“知性”と“学び”が集まる地域。歴史も長く、さまざまな学者・芸術家・文学者たちが8世紀以上にわたり、この界隈に集ってきた。
そうした土地柄を映し出すように、Cluny-La Sorbonne駅では、ここで活躍した人物に敬意を表した「6万枚のモザイクアート」を見ることができる。

駅の天井には、モザイクで無数の文字と、鳥を思わせる大きなシンボル画が。派手な作品ではないものの、流れるような文字デザインと落ち着いた色合いが意外にも心地良い。

※この地で活躍した50人の名前がモザイクに刻まれている
手がけたのは、フランスの芸術家、ジャン・バザンヌ(1904–2001)。彼は Cluny-La Sorbonne駅を「地下の大聖堂」と捉え、天井いっぱいに2匹の巨大な「鳥」を羽ばたかせた。モザイクには、フランス中部ヴォルヴィック産、約6万枚の溶岩タイルが使用されているという。

一方で、メトロ1番線の Louvre-Rivoli(ルーヴル・リヴォリ)駅は、ルーブル美術館の「前室」のようなデザインになっている。これは、1968年当時の仏文化大臣、アンドレ・マルローの提案によるものだった。

※当時は Louvre-Rivoliがルーブル美術館の最寄り駅だった
改札を通ってすぐに始まる展示にワクワクしながら降りていくと、いくつかの彫刻(レプリカ)がホームの両サイドに整然と並べられている。光を落とした空間で、メトロでありながら本物の美術館にいるような演出が面白い。

Louvre-Rivoliで降りれば、ルーブル美術館をはじめとしたパリのアートの世界に、駅からそのまま触れられる。メトロ駅の中ではとりわけシックな雰囲気で、レプリカとはいえ、さまざまな時代の彫刻を間近で楽しむことができる。一度は降りてみる価値のある駅だ。

メトロ11番線の駅 Arts et Métiers(アール・エ・メティエ)では、他駅とはがらりと様子が異なり、一気に現代アートの世界へと引き込まれる。
この空間が誕生したのは、1994年のこと。パリ国立工芸院の創立200周年という大きなイベントを記念して、「潜水艦」をイメージしたレトロフューチャーな駅ホームが完成した。※パリ国立工芸院は、もともとエンジニアを養成するために作られた学校だった。

※Jules Verneの小説『海底二万里』に登場する潜水艦をイメージしたという

Arts et Métiers駅の特徴は何といっても、天井に組み込まれた歯車やメタルなゴミ箱など、細部までこだわりつくしたデザインにある。目立つ広告パネルはなく、通路の階段に敷かれたタイルの色も、駅全体のカラーに合わせて選ばれているのがとても印象的だった。

※実は駅それぞれでまったく異なるカラーのタイルが使われている
上記3つの駅が「常設展アート」だとすれば、メトロ1番線の Hôtel de Ville(オテル・ド・ヴィル)駅は、まるで「企画展アート」のような存在。ここでは、定期的に入れ替わる“写真展”を見ることができる。

RATPは、「La RATP invite」プログラムとして、フランス国内外のフォトグラファーの作品を駅ホームにて紹介している。2026年1月21日〜5月中旬までは、現代社会や環境問題をユーモアたっぷりに切り取るイギリスの写真家、マーティン・パーの作品「Global Warning」が公開中。※作品は他でも、合計17の駅で見られる。

※ベンチの色も可愛いHôtel de Ville駅

Hôtel de Villeでは、まさに企画展のように定期的に写真が入れ替わるので、個人的にも降りるのが楽しみな駅。過去には、2024年のパリ五輪の際にスポーツをテーマにした写真展が開催されたこともあった。

※パリ市のシンボルマークに標語「たゆたえども、沈まず」もこの駅で発見できる
パリの公共交通機関×アートの関係。これには、「ストレスをともなう移動空間に美を」というRATPの計らいがあった。
近い将来に開通する郊外路線、グラン・パリ・エクスプレスでもこのようなアートが見られるというから、ますます楽しみだ。(ち)


