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パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」 Posted on 2026/04/09 Design Stories  

 
パリのノートルダム大聖堂、この歴史的建造物をじっくり眺めていると、小さくて奇妙な石像「ガーゴイル」に目が行くことがある。
 

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

 
13世紀から、大聖堂を見守り続けてきたガーゴイル。これはラテン語の「gargula」に由来していて、「喉」を意味している。装飾だけでなく、水を吐き出す「雨どい」としての役割を持っている石像だ。
屋根に落ちた雨水を口から流し、石壁を傷めないようにする工夫。そんな地道な役割を、ガーゴイルは8世紀近くもずっと続けてきたのだった。
 



パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

 
ところが、ただの設備とは思えないときもある。牙をむいていたり、動物とも人ともつかない奇妙な体つきをしていたり。どれも不気味な雰囲気だが、いったん見慣れてしまうと、彼らにちょっとした愛嬌を感じたりもする。
そのモチーフは、動物・人間・怪物・悪魔などを混ぜたもの、なのだそう。当時の設計者たちは、ガーゴイルたちに強い守護の力があると信じていたという。

こうして見ると、地震のないフランスだからこそ残った“石造りの雨どい”だと言える。フランスの人々は、逆に「日本の鎖樋がユニーク」だと興味を示すようだが、両国の気候と災害条件の違いが、雨どいの違いにも表れているのだと思う。
 

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

※キマイラの像

 
パリでこのようなガーゴイルが見られるのは、やはりノートルダム大聖堂がいちばんだ。ただ、よく似た存在として「キマイラ」と呼ばれる像もある。
見た目は似ているものの、こちらには雨水を流す機能がついていない。キマイラは、純粋な装飾として作られたもので、時代も少し新しいという特徴がある。いわば後から大聖堂に住みついた、想像上の生き物たち。彼らはノートルダム以外でも、古くて規模の大きい教会などに住みついていることがある。
 

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

※サン・トゥスタッシュ教会のキマイラ像



 
話は前後してしまうが、ノートルダム大聖堂にももちろんキマイラ像が存在している。これらは、19世紀の修復の際に新しく加えられたもの。中でももっとも有名なのは、北塔の手すりに肘をつき、物思いにふける「Le Stryge(ル・ストリュジュ)」だろう。彼は、写真・版画・絵画・小説‥‥と、数多くの芸術作品にも登場する有名人だ。
 

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

※「Le Stryge」Photo: Tattva / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

 
ストリュジュのような存在が生まれた背景には、19世紀という時代の流れも大きく影響していた。
革命期の混乱で、損傷がすすんでいたノートルダム大聖堂。屋根や尖塔部分は壊れ、石の彫刻も欠けが目立っていた。修復を担当した建築家、ヴィオレ・ル・デュクはそこで、彫刻をただ復元するのではなく、自分の想像で「理想の中世」を描き足したという。現在の大聖堂の石像はつまり、中世の姿と19世紀の芸術観が重なった、歴史のレイヤーでできているということになる。

しかし、2019年に起こったノートルダムの火災は、そうした長い時間の積み重ねに亀裂を入れてしまった。
頬杖をつくあのストリュジュは炎を免れたものの、いくつかのガーゴイルやキマイラは、火災によって大きなダメージを受けてしまった。もちろん現在は完全に修復され、2024年の再開とともにすべてが元あった場所に戻されている。
 

パリ・アート情報「守るために生まれた石像、パリのガーゴイル」

 
こうしてフランスにいると、「石造りの寿命は非常に長い」とあらためて感じる。雨どいとして始まったガーゴイルが、守護者となり、芸術作品となり、そして象徴として受け継がれているように。フランスにおける“石”は、時代ごとに今も更新をつづけている。(や)
 

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