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パリ最新情報「世界最古のデパート『ボンマルシェ』、創立170周年を迎える」 Posted on 2022/01/20 Design Stories  

世界で最も古いデパート、パリ左岸にあるボンマルシェが今年2022年で創立170年を迎えた。
大型デパートの多くはパリ右岸に位置し、その華やかさで私たちをいつも楽しませてくれる。一方、こちらのボンマルシェはゆったりとした雰囲気で、店員さんと会話を楽しみながら、自分のペースで買い物を堪能できるというのが魅力的だ。

デパート氷河期と言われる時代にあって、無事に創立170年を迎えるというのは並大抵のことではない。
なぜここまで地元の人に愛され続けるのか、なぜ人はボンマルシェの空間を「心地よい」と感じるのか。そこには脈々と受け継がれる創業者夫妻の想いが反映されていた。

パリ最新情報「世界最古のデパート『ボンマルシェ』、創立170周年を迎える」

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もともとボンマルシェの土地には、リネン類やアクセサリーを扱う300平米の小さなショップがあった。
1852年に創業者であるアリスティド・ブシコーと、その妻マルグリットが経営に加わり、「誰もが気軽に入れて、商品の価格がすぐに分かる」という現代では当たり前となったデパートの販売形態を開始する。

世界初となる女性専用の化粧室、そして男性客のための図書サロンなどを設け、ボンマルシェはその行き届いた気配りでみるみる人気店となっていった。
さらに、150頭の“馬”を使った配達サービスも百貨店として初めて開始。
馬車で一日で往復できる距離であればどこにでも商品を届けた。そしてその馬車にはボンマルシェの看板を掲げ、広告塔としてパリ中を駆け巡ったという。

お客様の行動を細かく分析し、広々として見やすい店内設計を図る一方、夫妻は社員の待遇も保証した。
実は、現在の法が整備されるずっと前に、ボンマルシェの社員は手厚い福利厚生を受けることができた。毎週日曜日の休み、勤続20年以上の者に与えられる年金、有給休暇、妊婦手当、1日2回の社員食堂、本館の屋根裏にある独身寮などなど、そこには百数十年前とは思えないほどの優しさがあったそうだ。

パリ最新情報「世界最古のデパート『ボンマルシェ』、創立170周年を迎える」



訪れる人・働く人どちらにも魅力的な場所であるようにといった想いは今でも受け継がれ、
加えてボンマルシェは芸術の振興をも支援している。
毎年1月には“白”をテーマにした大規模な現代アートの展示が行われ、創立170年を迎えた今年はトルコ人アーティストによる巨大な「氷山」アートが掲げられている。

もう一つ、ボンマルシェで欠かせない話題といえば、お隣の食品館ではないだろうか。
日常の食品から高級食材まで、厳選されたありとあらゆる食材が集まるラ・グランド・エピスリー・ド・パリ。こちらは来年の2023年で創立100周年を迎えるという。

パリ最新情報「世界最古のデパート『ボンマルシェ』、創立170周年を迎える」



地下のワイン売り場は見事な品揃えで、フランス最高峰のシャトーと、それに匹敵する生産者が情熱をかけて作り上げた傑作が並ぶ。
ジャムやスパイスのセレクトもかなり豊富なので、スーパーでは見つからないクオリティのものをここで発見することができる。
いずれもボンマルシェの品格が垣間見えるラインナップで、広く見やすく、圧迫感がないというのが特徴だ。

パリ最新情報「世界最古のデパート『ボンマルシェ』、創立170周年を迎える」



時代の流れで1984年にはLVMHの傘下となったが、それでもボンマルシェが今日に残した功績は大きい。
バーゲンセールという概念、カタログによる通信販売、商品の返品制度、クリスマスショーウィンドーの設営など、これらは全てボンマルシェが発案したものだった。

その後、創業者ブシコー氏の妻マルグリットは1億フランもの莫大な資産をパリの病院建設のために寄付し、誰もが認める地元の名士となった。2000年にその病院は閉鎖されてしまったが、その慈善事業を讃えた夫人の像が今でもボンマルシェ近くのブシコー広場に残っている。

創業以来、何百回と繰り広げられてきたバーゲンも、この冬季セールはテレワークが義務となっているおかげで不振であるとパリで報道された。
しかし、戦争や疫病を経験しながらもボンマルシェが一度も閉店したことがない(改装除く)という事実には驚くばかりだ。
旅行者が少なく厳しい時代ではあるが、消費者のハートを射止めるデパートとしてこの先もずっと続いてほしい。(内)

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