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パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」 Posted on 2026/03/14 Design Stories  

 
パリの街並みは、見上げるほどに面白い。バルコニー、屋根の煙突、アイアンの手すりなど、日本とはまるで雰囲気の違う姿に、つい目線を上げながら歩いてしまう。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

 
こうした建築物の多くは、19世紀の「パリ大改造」で整えられたもの。とくに格式の高い建物や、大通り沿いに並ぶ建物には、ほぼ必ずといって良いほど彫刻の装飾が施されている。
そんな彫刻に、女性の像が多いことをご存じだろうか。パリの建物は、実は女性の姿によって支えられていたのだ。
 



パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

※パリ5区、サンミシェル大通り沿いの女性像

 
フランス語で「cariatide(カリアティード)」と呼ばれる女性像。ほとんどが二体一組で、片方は半裸、そしてもう片方は布(服)をまとっている。左右対称には見えるものの、実はまったく同じ像は存在していないのだという。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

※リアルな表情。たしかに左右対称ではない

 
そんなカリアティードの役割は、意外にも現実的だ。柱の代わりに建物を支えるという、とても実用的な役割。こうした建築技術と、芸術としての彫刻がひとつになった装飾が、パリのカリアティードなのだった。
 



 
これらのインスピレーション源になっているのは、古代ギリシャの建築技術。アテネのアクロポリスに建つエレクテイオン神殿では、実際に6体の女性像が屋根を支えている(紀元前5世紀建設)。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

※こちらは柱ではないが、パリでは女性像の装飾が本当に多い

 
さらに、カリアティードという名前の由来には、いくつかの説があるそうだ。ひとつは、ギリシャのペロポネソス半島にあった「カリュアイ」という町の女性を表す説。もうひとつは、宗教儀式で供物を頭に載せて運ぶ「カネフォロイ」という若い女性を表している説。また一方では、「神殿に仕える巫女の姿」だとする説もある。ハッキリとした由来は分からないものの、それがかえってカリアティードの神秘性を高めているのかもしれない。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

 
パリの建物には、こうした「彫刻像」が圧倒的に多い。彫刻以外にも、オスマン様式のアパルトマンでは、漆喰・鋳鉄・ステンドグラスといったさまざまなアートが組み合わさっている。もちろん室内では、壁画や天井画が施されているところもある。
19世紀の装飾彫刻は、パリ全体が美術館のような空気をまといはじめた、まさにその頃にスタートしたものだった。

中でもカリアティードは、建物ごとに表情やポーズが絶妙に違っていて、本当に個性が豊か。親しみやすい表情もあれば、逆に近寄りがたいオーラを放つ女性像もいる。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

※ルーブル美術館北側のカリアティード

 
近寄りがたいといえば、ルーブル美術館西側に立つ4体のカリアティードだろうか。格式高い建物というのも相まって、表情にも佇まいにも威厳が漂っている。
たしかに今回見た限りでは、国の重要機関が入る建物ではこのようなカリアティードが、居住用のアパルトマンではより柔らかい表情のカリアティードが刻まれていることが多かった。
※パリには男性像も存在するのだが、これはギリシャ神話の“世界を肩にかつぐ巨人・アトラス”にちなんで「アトランテ」と呼ばれている。
 



パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

※マレ地区のトゥルビゴ通りにある巨大なカリアティード

 
では、パリ最大級のカリアティードを最後にご紹介したい。
マレ地区・トゥルビゴ通りにあるアパルトマンでは、天使の羽根を携えた巨大なカリアティードを見ることができた。首が痛くなるほど見上げる必要がある、迫力満点の女性像だ。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

※右手に袋、左手に枝を持つ不思議な像

 
1859年に設置されたこの巨大なカリアティードは、天使の翼&プリーツの入ったドレスが特徴的。何でもプリーツドレスは、ナポレオン3世(1852〜1870年)の時代、ブルジョワの女性たちの間で流行したファッションだったという。

しかし面白いのは、彼女が今日のパリジャンから「la femme qu’a l’sac(袋を持った女)」などと呼ばれているところ。たしかに袋は持っているが、カリアティードはそんなニックネームがつくほど親しまれている、身近な存在でもあったのだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリの建物を支える女性像、「カリアティード」の秘密」

 
パリでは現在、500体以上のカリアティードが確認されている。彼女たちが象徴するのは、愛情、富、情熱など、それぞれに深い意味だ。
自然災害の少なさ、素材の耐久性の高さ、そして文化的保護意識の三拍子が揃ったパリで、こうした美しい彫刻が見られるのはありがたいことでもある。

彫刻はカリアティードに限らず、いたるところで見られるので、街歩きの際はその表情にもぜひ注目してほしい。今にも動き出しそうな像に、しばらくは釘付けになってしまうかもしれない。(オ)
 

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