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パリ・カルチャー情報「マンサード屋根、パリの景色をつくる屋根」 Posted on 2026/03/24 Design Stories
パリの屋根は、ほとんどが「灰色」だ。色がそろっていることも素敵なのだが、途中で折れ曲がるように角度を変えたあの独特なシルエットにも、ついつい目を向けてしまう。


これは、「マンサード屋根」と呼ばれる、フランスならではの建築様式だった。屋根の下側はかなり急な角度で立ち上がっていて、上側の部分はそれよりも緩やかに整えられている。さらに、「リュカルヌ(lucarne)」 と呼ばれる小窓がリズミカルに並んでいる姿もとても印象的で、パリに無くてはならない景観をつくっている。
ではなぜ、こんな形をしているのだろう? 建物によって微妙に形が違う、、、と不思議に感じていたのだが、この構造がもたらすメリットは、どうやら一つだけに収まらないらしい。

17世紀に誕生したマンサード屋根が、今も現役で使われているのには理由があった。
一番大きなメリットは、屋根裏の空間を有効活用できるということ。屋根が急に“折れる”ことによって、ほぼ垂直の壁面が生まれ、内部にしっかりとした空間を確保することができる。
屋根の素材は、ほとんどがスレートや亜鉛。建物のスタイルに合わせて、柔軟にデザインできるのが大きな特徴だ。ということで、マンサード屋根は見た目を損なわずに、内部の床面積を増やせるため、とくにパリのような都市部ではメリットが大きかったという。
※ただ、現代では気候変動などで内部が非常に暑くなる、というデメリットもある‥。積雪地帯には向かないという弱点も。

フランス語でも「マンサード(Mansarde)」と呼ばれるこの屋根。では、名前の由来は? というと、これはフランスを代表する17世紀の建築家、フランソワ・マンサール(François Mansart)から来ている。彼が二重傾斜の屋根を広めたことで、「マンサード屋根」と呼ばれるようになった。
さらに注目を集めたきっかけは、フランソワの甥、ジュール・アルドゥアン=マンサールにより、ヴェルサイユ宮殿に採用されたことだった。マンサード屋根は、宮殿の美しい外観に貢献しただけでなく、屋根裏の居住空間を有効活用できる機能性も持ち合わせていたため、その実用性が高く評価され、一躍有名になったのだった。

パリでは、建物の高さや色合いなどに厳しい規制があることでも知られているが、マンサード屋根もまた、そんな街並みの風合いに大きく影響していると感じる。
直線的な建物の上に乗る屋根のラインが、街のシルエットを柔らかく整えている。屋根の形も小窓の形も似ているようでまったく似ていないため、視界に単調さが生まれない。


もう一つ気づいた特徴としては、建物を下から見上げた時に、一般的なひさし(庇)部分がほとんどないことだった。
パリの街では、「雨宿りがしにくい」と思うことがある。実はこれも、庇を持たないマンサード屋根の特徴で、突然の雨に遭えばそれを避けることができずにずぶ濡れになってしまう。とはいえ、この構造こそがスッキリとした見た目をつくり出していて、パリの景色に統一感を与えている理由ではないかと感じた。

そうしたマンサード屋根によって得られる屋内の追加スペース、つまり建物の上階部分は、現在では収納スペースや書斎、または寝室として自由に使うことができる。一人暮らし用の“小さなスタジオルーム”として機能しているところも、大変に多い。
ただ、その内部は先述したように、「壁が少し傾斜しているため頭をぶつけやすい」「夏は暑い」「家具を置くのに工夫が必要」などといった切実な問題も発生する。しかし、マンサード屋根が生み出す空間には、そうした不便さも含めて、他では決して見つからない味わい深い魅力があるのだった。

フランス生まれのマンサード屋根は、とくにパリ中心部、ヴェルサイユ宮殿などで素晴らしい形状を見ることができる。似ているようで一つ一つに個性があるこの屋根、じっくり眺めていると「自分のお気に入り」を見つける楽しみもあって、本当に面白い。(大)


