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パリ・アート情報「愛犬と一緒にアート鑑賞!フランス初、犬の美術館がオープン」 Posted on 2025/06/01 Design Stories
フランスで初となる、“犬”に特化した美術館が2025年5月16日、パリ近郊のオーベルヴィリエ(Aubervilliers)にオープンした。入場料は無料で、リード付きであればなんとワンちゃんを同伴することも可能。歴史ある美術館というよりは、アートセンターのようなモダンな雰囲気だが、展示を通してフランスと犬との深い絆を再発見することができる。
※美術館はこちらのビル5階に
犬専門の美術館「ミュゼ・デュ・シアン(Musée du Chien)」は、フランスの血統書付犬種登録や、犬の文化普及を担う「ソシエテ・サントラル・カニーヌ(Société Centrale Canine)」の本部ビル内、5階に位置している。およそ500㎡の広大なスペースには、絵画や彫刻、タペストリー、写真、広告ポスターなど、フランスと犬たちがどう関わってきたか? をテーマにした、数多くの作品が展示されていた。なお、犬専門の美術館としては、ニューヨークに次ぐ世界2番目の規模なのだそう。
※ワンちゃんも一緒にアート鑑賞!
フランスと犬の関係は、日本と同じように歴史が深い。とくに中世の貴族社会では、犬たちは狩猟犬として大活躍。ルイ14世やルイ16世など歴代の王たちも、狩猟犬を何十頭も従えていたといい、犬はフランス王政と結びついた象徴的な存在だった。
美術館ではそんな歴史的背景の紹介からはじまり、19世紀から現代にかけて、犬たちがフランス人の暮らしのなかでどのような存在へと変化していったのか、その歩みを丁寧に紹介している。犬をモチーフにした珍しい骨董品やアート作品も目白押しだ。
※ワンちゃんモチーフのボタン
※19世紀中頃、ナポレオン3世時代のワンちゃんハウス(スツール)
※アンティーク品、ワンちゃんモチーフの“まち針”
なかでも興味深かったのは、この美術館で「ヒーロー」と呼ばれていたワンちゃんたち。これは軍用犬や救助犬のことで、先の大戦から現在にいたるまで、人を救助するために活躍した犬たちの歴史が詳しく紹介されていた。フランスでは、軍用犬(警察犬)のほか、アルプス地方などで人名救助を行う“山岳救助犬”がとくに有名だ。今では数が少なくなったが、かつてはセント・バーナードがフランスの山あいで大活躍していたといい、彼らが首にかけていた「樽」も実際に展示されていた。
※昔、遭難者には血行をよくするために、この樽に入ったアルコールを飲ませていたそう
※パラシュート降下用ハーネス。かつて空挺部隊に配属されていたワンちゃん専用
第二次大戦が終了すると、犬たちは主に牧羊犬や番犬、家庭犬としてフランス人の“大切なパートナー”に変化する。美術館終盤にある油彩エリアでは、フランスの地方犬種の歴史と役割をテーマにした油彩シリーズが展示され、それぞれの都市で人気のあったワンちゃんが生き生きと描かれていた。
※ボルドーやピレネー、パリなど、フランスの6つのエリアで人間と共に生きた犬たちを絵画で表現
※パリではビションフリーゼやパピヨンといった小型犬が人気に
ミュゼ・デュ・シアンでは、このようにフランスと犬の深い歴史・文化を一挙に学ぶことができる。ただ、オンライン予約はシステムの準備が整う2025年9月以降から可能になる予定で、それまでは電話かメールでの事前予約のみ受け付けているとのこと。ガイド付きツアー(フランス語か英語)が必須ではあるが、犬がいかにフランス人の暮らしに寄り添い、ともに生きてきたかをたっぷりと学べる充実の内容になっている。※所要時間は約2時間。
犬好きの方にはもちろん、19世紀の文化や暮らしの視点からフランスを深掘りしたい人にもおすすめの、まったく新しいスポットだ。(ち)
【ミュゼ・デュ・シアン Musée du Chien de la Centrale Canine】
所在地:155 Avenue Jean Jaurès, 93300 Aubervilliers, France
開館時間:月曜日から金曜日の9:30~12:30、13:30~16:30(要予約)、土日祝休
予約方法:電話(+33 1 49 37 55 57)またはメール mediatheque@centrale-canine.fr
公式サイト:https://www.centrale-canine.fr