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ロンドン最新情報「サッカー決勝で盛り上がるイギリスの抱える不安」 Posted on 2021/07/11 Design Stories  

UEFA欧州サッカー選手権(ユーロ2020)で、イングランド代表チームが快進撃を続けている。今晩、ロンドンのウェンブリー・スタジアムでイタリアとの決勝に臨む。

 「サッカー誕生の地」イングランドでは、「カミング・ホーム」(故郷にサッカーが帰ってくる)という合言葉で、主要大会での55年ぶりの優勝を応援する雰囲気が盛り上がっている。昨日はエリザベス女王がイングランド代表チームに手紙を送り、1966年のワールドカップでイングランドが優勝した際、自ら優勝トロフィーを授与した思い出に触れ、代表チームの「精神、努力、自尊心」をたたえた。一方、イングランド・サッカー協会会長を務めるウィリアム王子は、生まれてからイングランド優勝を目にしたことのない世代だけに、「本当にこんなことが起きているなんて、信じられない」と率直な感想を述べている。

ロンドン最新情報「サッカー決勝で盛り上がるイギリスの抱える不安」

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7日にウェンブリーで行われた準決勝の対デンマーク戦では、ウィリアム王子が観戦したほか、ボリス・ジョンソン首相はイングランドチームのロゴ入りの公式Tシャツを着て、夫人とともに応援した。
決勝戦進出が決まると、「優勝したら翌日の月曜日は祝日にしてもいい」と発言したが、あまりに急な決定となることから、その後、祝日を設けるとしても8月に行う方針に訂正している。
またサッカーファンで知られるミュージシャンのミック・ジャガーが、パリから帰国した翌日に検疫を破ってお忍びで観戦したと、「デイリーメール」紙が報道した。
ジャガーは検査で陰性を確かめて慎重に行動したと釈明している。

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一方、先日ブレグジット後のイギリス滞在資格の申請期限を迎えたばかりの在英イタリア人の間では、イタリアからの渡航が難しい中で、アウェイのイタリア代表選手たちをできる限り応援したいと願い、窓辺にイタリア国旗を掲げるなどの動きが見られる。筆者の子どもが通う小学校の校長先生はイタリア人で、「強い方のチームが勝つように応援しましょう。月曜日はお休みではないのでいつもどおりの時間に学校に来ましょう」というメッセージを保護者向けニュースレターに寄せた。

ウェンブリースタジアムには大型イベントの感染を調べるプロジェクトの一環として、直前の陰性結果を提出する人に限り、定員の75%にあたる6万人の観客を収容している。屋内エリアでのマスク着用は義務付けているが、屋根がないところではマスク着用は義務ではなく、ジョンソン首相らもマスクなしで応援する様子が報道されている。

6月18日にスコットランドからウェンブリースタジアムの試合を観戦しに行った397人をはじめ、ロンドンを訪れた600人あまりが新たにコロナウイルスに感染する事例が起きている。スコットランド公衆衛生局は、ユーロ2020観戦が直接的な原因で感染した人は2000人に達するという見方を示した。

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その後もイギリス全国での感染者は増え続け、1日あたりの新規感染者は3万人を超えている。インペリアル・カレッジ・ロンドンの調査(6月24日〜7月5日)によると、イギリス全国でロンドンでの感染率の上昇が最も顕著で、さらに男性は女性の3倍多く感染しているという結果が出た。
この背景にはユーロ2020をスタジアムやパブなどで集団で応援している人は男性の比率が高いことが背景にあると分析している。スカイニュースの取材に対し、研究チームのスティーブン・ライリー教授は、ワクチン未接種の若い世代が、特に屋内で交流することにより、デルタ株を中心としたコロナウイルスの感染が広がっているとの見方を示した。

政府はかねてから、7月19日にコロナウイルス感染対策の規制をほぼ全廃する大胆な方針転換を発表している。英国医師協会や医療従事者からは、感染爆発により医療の逼迫を招きかねないと警告しているほか、今朝の「オブザーバー」紙が掲載した世論調査によれば、国民の50%が規制撤廃に反対し、ロンドンのサディク・カーン市長は公共交通機関でのマスク着用義務続行を主張し、関係当局との協議を進めている。

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一方で、東京オリンピックのほとんどの会場が無観客となることは、イギリスでも大きく報道された。感染者は増えていてもイギリスとは比較的低いレベルにとどまっているものの、ワクチン接種率の低さが問題で、当然の決定という見方が強い。
これまでは規制緩和に慎重な姿勢を示してきたイギリス政府は、ワクチン接種計画の成功を受けて、方向を転換して「ウイルスとの共生」を打ち出している。ユーロ2020の会場に6万人の観客を入れていることもその一環だが、「ワクチン接種だけに頼るコロナウイルス 対策は危うすぎる」という批判が、科学者からも一般からも高まりつつある。(清)

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