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パリ最新情報「フランス、移民政策転換期か?『オーシャン・バイキング号』を巡って議論が活発化」 Posted on 2022/11/17 Design Stories
234人の移民および難民を乗せた人道支援船、「オーシャン・バイキング号」が南仏トゥーロンに寄港してから4日が経った。
それに伴い、フランスのニュースはこのところ頻繁に移民問題を取り上げるようになっている。
オーシャン・バイキング号は約20日間に渡り、上陸地を求めて地中海をさまよっていた。
しかしイタリア側がこれを拒否、その後フランスが受け入れを表明し、11月11日に南仏・トゥーロンの軍港に一時停泊することになった。
今回上陸した難民234人は、人数の多い順にバングラデシュ人が54人、次いでエリトリア人が39人、シリア人が32人、エジプト人が27人、マリ人が25人、その他ギニア、スーダンなど、戦争や悲惨な状況、抑圧から逃れてきた計11国籍の人々であった。
しかしながら234人のうちパスポートを所持していたのはわずか25人だったといい、ほとんどが18歳〜30歳もしくは未成年の若者で、うち10人ほどが2005年1月1日という同じ生年月日を申告していたという。
なおフランス政府は現在のところ、234人のうち44名の強制送還を発表している(正確な理由は不明)。
フランスでは今、このオーシャン・バイキング号を巡ったスキャンダルが問題視されている。
11月3日、仏国会ではアフリカ系議員カルロス・ビロンゴ氏がオーシャン・バイキング号の受け入れを要求していた。
しかし同氏の演説中、極右政党国民連合の議員が「アフリカに帰れ!」と発言。
その後2週間の国会への出席停止処分を受けた。
移民と向き合ってきた長い歴史を持つフランスだが、この発言はフランスで生まれ、れっきとしたフランス人であるカルロス・ビロンゴ氏を侮辱および差別するものだとされ、国内で大きな論争を巻き起こしてしまった。
一方で、11月14日にはフランスとイギリスの間で「イギリス海峡での移民の越境」に対する新しい協定が生まれている。
この協定では、イギリスが2022年から2023 年にかけて7220万ユーロをフランスに支払うことを定めており、これによってフランスは移民が集まる仏北部の海岸の警備を強化することになる。
英仏を結ぶ海峡では、渡航を試みた移民が海難事故で命を落としてしまうといったケースが後を絶たない。
なお2014年以降ではこの海峡で200人以上が死亡または行方不明となっている。
※仏北部、カレー(Calais)の海岸
移民と難民では定義が異なるが、彼らと長く対峙してきたフランスは、今まさに移民政策の転換期を迎えているのかもしれない。
というのも、オーシャン・バイキング号の問題とは別に、フランス政府が外国人労働者を今後さらに受け入れる考えがあるため。
これは、2023年前半に予定されている亡命・移民法草案の一環として、過去2年間に爆発的に増えたフランス国内の人材不足(レストラン従事者、ホテル業務、農業、建設業など)を緩和するために計画されているものだ。
内容は主に、こうした仕事への就労を望む者に対し1年間有効の特別滞在許可証を発行し、かつ亡命者がフランスに入国してから6ヶ月間働くことができない期間を取りやめるというもの(犯罪歴がないことなどが前提条件)。
労働力不足の解決の糸口になるとされているが、極右政党からは当然のように反対の声が上がっており、今後の行方に注目が集まっている。
パリで12歳の少女が不法滞在者によって殺害された「ローラ事件」に始まり、オーシャン・バイキング号、イギリス海峡における英仏協定、そして外国人労働者の拡大問題と、今のフランスは移民政策に関する話題で持ちきりだ。
他のヨーロッパ諸国は右傾化するところもあるが、フランスがどう舵をとっていくのか、これからの動きに着目したい。(こ)